三戸久美子さんの“危険木の見分けと、木を読む楽しみ方”
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近年、全国各地で落枝や倒木による事故が発生しています。岐阜県内でもこども園や幼稚園、小学校など、数多くの教育機関で野外活動が行われていますが、安心して野外を楽しむには、「どうしてこうした事故が起こるのか」を知る必要があります。
そうした疑問に応えるため、木の形や状態をまるで本を読むかのように解読し、「なぜ危険なのか」「どう対処すればよいのか」を、樹木医の三戸久美子さんに学びました。

参加者同士で自己紹介
三戸久美子さん(育樹研究所)は樹木医・樹木医講師として活躍されています。 国指定天然記念物「影向のマツ」保存指導委員、国指定天然記念物「府中ケヤキ並木」の調査のほか、神社仏閣、高速道路、民間宅地、住宅団地、フォレストアドベンチャーにおける樹木調査に従事。法政大学、東京農業大学非常勤講師。著書・翻訳に「図解・樹木の力学百科」「樹木診断調査法」ほかがあります。
最初は参加者同士の相互理解のため、自己紹介タイムです。今回の参加者の職業は保育教諭や保育園園長、ぎふ木育指導員、林業指導者、アーボリスト、公務員、会社員など様々ですが、みな野外活動の指導実績のある方々です。
参加者によっては、「自分の保育園には園庭にいろんな樹木があり、そこで園児が遊ぶため危険木について学びたい」という人や、「山で伐採作業する林業でも死亡事故がよく発生する。ここで危険木について学ぶことが安全作業にもつながる」といった意見もありました。

ドイツのクラウスマテック博士の図を参考に力学を説明する三戸さん
三戸さんは樹木の樹形が持つ意味を、生理学的(生物学的)意味と、力学的意味の2方向から見るべきで、「樹木は自己最適化するもので」と話されました。

スイスの樹木保全の考え方を紹介
また、多根幹雄さん著の『スイス人が教えてくれた「がらくた」ではなく「ヴィンテージ」になれる生き方』を紹介され、スイスでは自宅の庭木であっても自由に伐採することは許されないと話されました。
個人の気まぐれで勝手に伐り倒してよいものではないというスイス社会共通のルールがあり、伐採や大枝剪定は自治体(コミューン)への申請の後、正当な理由が認められれば施工が許可されます。
スイスでは1本の木でも、地域全体の財産(景観の一部や生態系を維持するもの)として捉えられていることを紹介されました。

「たたりの木」と呼ばれたサクラの事例を解説
三戸先生がかかわられた事例として、『たたりの木』と呼ばれたサクラについて紹介されました。このサクラは主幹が直立しておらず、相当斜めに傾いているため、多くの人は「傾いているから危ない」と考えます。
しかし実際には、木全体のバランスがとれるように枝を出して幹の重心点を調整しており、つまり樹木自身が自己最適化しています。

左が施工前、右が施工後
しかしこの個体も、パーツごとに見ると危険な部分があります。どこが最も危険なのかを探ることが重要で、この個体では枝の付け根付近に幹に対して横方向の亀裂があり、枝折れする危険性があったため、最終的には伐採されました。
面白いことに、伐採している最中から作業者自身が「サクラがなくなると暑い」という言葉を連発され、樹木の恩恵の大きさを感じたそうです。

過去の事故例を紹介
2003年8月の奥入瀬渓流での落枝事故では、女性が昼食をとろうとしていた時に約10mの高さから、長さ約7m、最大直径約41cmのブナの枯れ枝が落下し、女性は胸や足の骨を折り、下半身が麻痺して車いす生活を送る1級の身体障害者になられたという事故事例について紹介されました。
2007年1月には、国と県に連帯して合計約1億9300万円の賠償を命じた2審の東京高等裁判所の判決が確定しました。
また、2023年4月に神奈川県相模原のキャンプ場で発生した事故では、敷地内にあった樹高約18m、太さ約70cmのサクラの大木が根元から折れて倒れ、近くのテントに直撃し、女性が亡くなり、男性も大けがを負いました。
この事故も既に枯れていた樹木にもかかわらず、以前からシンボルツリー的に扱われてきたため、枯損という視点で注視してこなかった経緯があるようです。

樹木の力学的強度について学ぶ
樹木に多大な損害を与えるものの1つに「木材腐朽菌」があります。この木材腐朽菌を人間側から見ると「厄介な腐朽菌」ですが、生物学的に見ると「枯れた木材を分解してくれる分解者」としての役割があり、さらに生態的には「生き物のすみかを提供する」役割も持っています。自然のサイクルや物質循環を考えると、どの立場でものを見るかによって役割は異なってきます。
最近発生している事故に、「健全な枝が夏に落枝する」ものがあります。風のない穏やかで暑い夏の日に、一見健康そうに見える大木の太い枝が、突然何の前触れもなく折れて落下する現象です。
これを「サマー・ドロップ(Summer Branch Drop)」と言います。
この現象は、若く活力のある木よりも、老齢の大木や成熟した木で圧倒的に多く発生します。
これが発生する原因と考えられていることが3つあります。1つ目は①水分の過剰な圧力(細胞の弱体化)です。暑さで樹木が急速に水分を吸い上げる際、枝の内部で水圧(道管の圧力)が急上昇します。また乾燥が続いた後に突発的な豪雨が降ると内部圧力は急変し、細胞壁の結合が弱まって折れると考えられています。
次に②枝の重量増加と自己剪定があります。夏場に葉が過剰に茂ったり、果実が実ったりすることで枝自体の重さに耐えきれなくなり、樹木が生き残るために自ら一部の枝を切り離す「自己剪定」の一種とも言われています。
最後が③熱による脱水と内部の傷みです。高温によって枝の内部温度が上昇し、局所的な脱水症状が起きて強度が低下します。過去の剪定傷や、目に見えない内部の腐食・害虫による空洞化が引き金になるケースが多く発生しています。

危険な樹形の特徴を解説
樹形の意味を考える場合、①先端に大きな芽をつけるトチノキやホオノキは頂芽タイプで、これは単軸成長という主幹を持つ単幹型(突出型)樹形となるため、強い剪定には不向きなタイプです。
②小さな芽をたくさんつけるシナノキは側芽タイプで、これは仮軸成長という叢生型(沿下型)樹形となり、強剪定にも耐えられます。
空洞木での倒伏危険度は開空度で推測する考えもあるが、木部の壁の厚さが重要なことも考慮しましょう。

斜立木について解説
サクラの根本などにヘデラ・カナリエンシス(Hedera canariensis)というツル性植物が生えていることが多いが、これはいろいろな面で危険です。第1に限られた環境下で水分の取り合いが発生すること、第2に支持根の位置が見極めづらくなること、第3に樹木の大敵であるベッコウタケが隠れてしまうことなどが問題点として挙げられます。
斜立する樹木は、広葉樹なら引っ張りアテ、針葉樹なら圧縮アテを発生させ、倒伏に耐えようとします。

木の形を読み取ることの意味について学ぶ
もう1つ危険なのは、枝の股に樹皮が入り込んだ「入皮」状態なのか、枝の組織と幹の組織が絡んで頑丈になった「バークリッジ」が見られる状態なのかという点です。この「入皮」の部分に着生木が根付いて伸長することで、枝の股部分が脆弱化します。
「木を読む楽しみ方」とは、「木の生涯」を予測できることです。
枝葉が多ければ光合成生産物も多くなり、根や幹を太らせ発達させるため、木は強くなります。 枝先だけに葉があるようなライオンテール状の葉が少ないままだと、枝元がより一層弱くなります。
野外での樹木観察では、過去の剪定痕から考えれることや、適切な切断ラインについて語られました。
大きなアカメガシワを見つけると、根元の空洞に気づかれ、地中の腐朽や根の発達をどのように予測するのかについても語られました。

アカメガシワの根元の空洞について解説
林内には辺材腐朽菌に侵されたサクラの枝や幹も多く見られたため、それらの危険性について、また幹と枝の分かれ目の「入皮」や「バークリッジ」についてもその都度説明されました。
特に、「樹木が『この枝は近いうちに枯らしてもいいかな』と考えている枝」の外部的特徴についても詳しい説明がありました。

枝の着き方と危険性を確認
午前中の講義に続き、午後からの野外観察を終え、最後に参加者のみなさんからの質問タイムです。
本日の講義内容にかかわらず、参加者自身が抱える危険木についても質問を受けました。

まとめの質問タイム
さて今回の三戸久美子さんによる講座は、専門用語もありましたが、なんといっても多くの現場経験を積まれた中から語られる生きたお話が、危険木の見分けに役立つことと思います。
それと同時に「木を読む楽しみ方」を感じた方々は、樹木がより身近で大切な存在であることに改めて気づかれたことと思います。
この度はご参加されましたみなさま、三戸久美子先生、ありがとうございました。
以上報告はJIRIこと川尻秀樹でした。
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