宮本英樹さんが語る『里山蓄養』の魅力と可能性

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 北海道でさまざまな里山の利活用を進める宮本英樹さんを講師に迎え、最先端の里山整備と利活用の方法についてお話を伺いました。

「動物と森づくり」について語る宮本さん

「動物と森づくり」について語る宮本さん

 宮本英樹さんは北海道常呂郡置戸町生まれ。新聞記者を経て北海道自然体験学校NEOS(NPO法人ねおす)に参画し、日本で初めて「エコツアー」を称したガイドツアーを展開しました。

 行政や企業との協働事業コーディネートを経て、現在は(株)大沼流山牧場、どさんこミュゼ(株)、合同会社machicen、(株)里山蓄養など様々な業態を動かしつつ、ゲストハウス、ピザ屋、ジンギスカン屋、スーパーマーケット運営、ウェルネスリトリート型オーベルジュの運営など、これまで蓄積されてきたノウハウを多様な業態・ネットワークに組み込んで新たな展開をされています。

北海道で一緒に活動しているうえだんなが、宮本さんについて紹介

北海道の活動仲間「うえだんな」による宮本さんの紹介

 宮本さんが事例紹介される前に、北海道でさまざまな活動をともにしているmorinosスタッフの上田融(通称「うえだんな」)が、宮本さんについて紹介しました。

 宮本さんが進める里山整備のキーワードは、ズバリ「家畜とともに暮らす」です。宮本さんはそれを「里山蓄養」と表現されています。
 もう少し説明すると、長良川の鵜飼いで利用するウミウは、もともと野生のものを捕獲して利用してきました。つまり畜産のように出産から育成、消費までのサイクルを回すのではなく、一連の畜産の一部を生活に組み込む活動です。

「蓄養」とはどういう意味かを説明する宮本さん

「蓄養」の定義と意味とは

 北海道の森づくりで問題となるものの1つに、「ササの繁茂」がありますが、北海道の在来馬である道産子(どさんこ:北海道和種)の口元は、はびこるササの葉と同じ高さであり、道産子はこのササの葉を食べてくれます。軸の部分(稈:かん)だけになったササは枯れてくるので、刈払機で簡単に処理できます。刈った稈を集めて燃やし、その灰を林地に施用します。
 1haのササ地を1週間で整備できるだけでなく、馬糞がササマルチとなり、かつ馬の歩いた馬道は遊歩道に転用しやすいなど利点が多いそうです。
 しかも森を択伐して馬で木材搬出(馬搬)するだけでなく、馬車や馬橇(そり)で人を乗せれば収入にもつながります。

太陽光パネル下をヒツジで除草させることを説明する宮本さん

太陽光パネル下のヒツジ除草イノベーション

 1つの土地という視点から捉えると、地上の高い場所にある硬い葉を持つ植物は「ウマ」が、低い場所にある柔らかい雑草は「ヒツジ」が除草してくれるという役割が見えてきます。
 これを考えると、太陽光パネルの設置場所は周囲が金網で囲まれており、ヒツジ除草隊にとって絶好の場所です。ブドウ農園の除草にもヒツジは大活躍します。
 除草と言えばヤギも知られていますが、ヤギは好き嫌いが多く、草の上の方しか食べない傾向があるため、十分な除草につながらないことが多いそうです。また、木本植物の根まで食べてしまうため、ブドウ農園には適さないとのことでした。

譲り受けた広大な土地について話す宮本さん

譲り受けた広大な土地の活用法

 こうした活動に至った経緯の1つは、ゴルフ場に転用する予定であった広大な森林地を譲り受けたことだそうです。しかし、広大な土地をどのように管理したら良いか悩んでいた時に、蹄耕法(ていこうほう)を見つけたそうです。
 蹄耕法とは重機を使わずに、家畜の蹄(ひづめ)の力を利用して山林や原野、傾斜地などを牧草地(草地)に造成・更新する低コストな不耕起(ふこうき)の技術です。
 土地に多頭数の家畜を一時的に密集させて放牧(重放牧)し、既存の野草や雑草を食べさせたり踏みつけたりして弱らせます。家畜の蹄で土壌が引っかかれ、かくはん・鎮圧されることで、人が耕さなくても種をまく下地ができます。牧草の種をまいた後も放牧を重ねることで、家畜の蹄圧によって種が土に埋め込まれ、さらに糞尿が自然の肥料となって牧草の発芽と定着を促します。

ウマのセラピー的利用の有効性も語る宮本さん

ウマによるセラピー利用の有効性

 道産子などを飼育しながら森林整備する活動や、子どもたちのセラピー的な利用など、こしたこうした活動をしていたところ、シャルロット・デュマ(Charlotte Dumas)という世界的に有名な写真家が訪れ、その様子を世界に発信してくれました。デュマ氏は、現代社会における人間と動物の共存や関係性をテーマに作品を発表し続けているオランダ出身の写真家です。
 これを契機に、宮本さんが関係されていたインスタグラムは閲覧者が爆発的に増加したそうです。

ヒツジを食べることを決めたお子さんの事例を報告する宮本さん

ヒツジを食べることを決めたお子さんの事例

 『里山蓄養』を考えると、ウマもヒツジも肉利用が本来かもしれませんが、北海道には「ウシは搾る、ブタは食べる、ウマは使う」という不文律があり、北海道民としては、ウマの食用ははばかられるというのが、宮本さんの考えです。
 ウマは食べられませんが、ヒツジは蓄養して半年で肉に利用できます。中学生になるお子さんが、ヒツジ1頭を譲り受け、廃棄処分寸前のリンゴを食べさせたヒツジ肉の販売を試みた事例なども紹介されました。

 肉以外に何か価値を生み出せないかと考え、「空気・空間を売る」、つまり森林サービス産業につながる活動に価値を見出した活動が評価され、GOOD DESIGN AWARD 2022も受賞されました。

家畜を利用したバッファーについて説明する宮本さん

家畜を利用したバッファー(緩衝地帯)の解説

 また、『里山蓄養』による獣害の抑制にもつながる里山整備のあり方を提唱されました。里山という「人と自然の境界線」にウマやヒツジなどを配置することで、野生動物との境界線を引くこともできます。加えて薪やキノコ、山菜などの林産物も得ることができます

 宮本さんは北海道各地でヒツジのレンタルも実施されていますが、その決め手はリジェネラティブ(Regenerative)です。
 これは単に悪化を止めるだけでなく、元気な状態まで戻すという考え方が中心で、環境や地域、土壌、人との関係を、持続可能からさらに一歩先へ進めて立て直す発想です。

スノーエイジングした肉の事例

スノーエイジング(雪室熟成)した肉の事例

 「価値の掛け算・複合化・連続性」について紹介される中で、ネイチャーバトラー(Nature Butler)の価値についても触れられました。
 ネイチャーバトラーとは、「自然の魅力を人々に届ける執事」という意味で、北海道生まれの新しい概念や役割を指す言葉です。
 ある時は「焚き火料理人」、ある時は「ネイチャーサウナの熱波師」、またある時は「ホースセラピー(馬を介した癒やし)の提供者」や「自然ガイド」など、自然体験を単に「案内」するガイドの枠を超え、まるで執事(バトラー)のように手厚く、様々な形でおもてなしをしながら人と自然を繋ぐ存在です。
 そうしたネイチャーバトラーの1つとして、スノーエイジングして白カビを生やした肉の熟成も実施されていました。

中学生進学するお子さん自身が作る学習机についての説明

中学生になるお子さん自身が作る学習机

 次に、「持続可能から再生へ サステナブルからリジェネラティブ」について紹介されました。
 SDG’sでも有名になったサステナブルが「維持」なら、リジェネラティブは「再生」です。
 「再生」のために、グリーンウッドワークに取り組んだり、「森+動物」によるAAT(Animal Assisted Therapy:動物介在療法)またはAAE(Animal Assisted Education:動物介在教育)に取り組むことは有効です。
 AATは動物を介して行う治療・リハビリ支援で、医師や公認心理師、作業療法士などの専門職が評価を伴って実施する活動です。一方、AAEは学校教育などで、教員やその指導のもと、学習や情操教育のために動物を取り入れる教育的プログラムを指します。

 周辺森林整備で出た木材の有効利用として、中学生に進学するお子さん自身がつくる学習机づくりなども実施されていました。

アジア大会の宿舎に採用された木造コンテナ

アジア大会の宿舎に採用された木造コンテナ

 木材の利用で大きなものの1つは、写真にある「コンテナハウス」です。
 このコンテナハウスは、
現在愛知県で開催されているアジア大会でも大量に採用されて重宝されています。移動可能なコンテナであることがポイントです。

サウナ用のヴィヒタについて説明する宮本さん

サウナ用ヴィヒタの魅力と解説

 「森の里山的利用」を考えると、まずは「薪」があります。ガソリン価格が高騰すると薪もよく売れるそうです。薪を多く利用するのは、①薪ピザ と ②薪サウナで、薪ピザは1週間で1㎥利用され、薪サウナは一定数量から減った分だけ補給するシステムで運用しているとこのとでした。
 またサウナで使われる「ヴィヒタ(Vihta:植物の束)」の生産です。シラカバの若い枝葉を束ねたもので、本場フィンランドのサウナ文化には欠かせない道具です。サウナ室内で全身を叩いたり撫でたりする「ウィスキング」というトリートメントに使用します。これにより、血行促進や発汗、肌の引き締め効果が期待できるほか、白樺の爽やかな香りで森林浴のようなリラックス効果を得られます。

積丹ジンについて紹介する宮本さん

積丹GINについて紹介

 それ以外にも、カエデやシラカバの樹液から生産するメープルシロップやシラカバシロップ、地域の香りを売る「積丹GIN」など、地域の香りの重要性にも言及されました。
 真菌類に強いアカエゾマツを利用した「動物用ワセリン」の開発などは、木育マイスターに応募された木好きな方々のお陰で商品化できたそうです。
 開発した商品はイラクサによる「大地の天茶」や、オオバクロモジのフレグランスアロマなど、多岐にわたっていました。

参加者同士のシェアリングタイム

参加者同士のシェアリングタイム

 最後に、本日の参加者によるシェアリングタイム。

 動物を蓄養することで自然再生するという事実に感動した、などの感想が出る中、宮本さんは”「人間 対 自然」の森づくりは難しい。そこに動物を入れることで、ハードルがかなり下がるような気がする。みんながやらないこと、やりたがらないことをやるのが面白い。”と話されました。

 里山蓄養は、単なる整備手法だけではありません。宮本さんは里山整備を単なる環境整備に終わらせるのではなく、これまでの多様な経験から教育や保育、ビジネスなどの多様な課題を解決する手段として展開されています。

 以上、報告はJIRIこと川尻秀樹でした。

 

 

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