ワラビ根からの「わらび餅」、トチノキの「栃の実」から始まる地域おこし

開催した日:

 岐阜県立森林文化アカデミー卒業生で、飛騨市神岡町山之村地区で『わらび粉生産』を主軸に、多様な生業で地域に貢献している前原融(まえはら とおる)さんを講師にお迎えし、morinosの講座を開催しました。

わらび粉生産を決意させてくれた恩師の紹介をする前原さん

わらび粉生産を決意させてくれた恩師を紹介

 前原 融さんは群馬県出身で、大学卒業後3年ほどサラリーマンとして勤務した後、岐阜県立森林文化アカデミーに入学されました。
 わらび粉に着目する契機となったのは、大学時代の恩師の言葉でした。森林文化アカデミー入学後は、わらび粉生産を目指して現在の高山市や飛騨市で活動を模索し、飛騨市の地域おこし協力隊としての活動を経て、現在は「わらび粉職人兼マルチワーカー」として活躍されています。

 現在流通しているわらび粉は灰色のものが一般的で、それを使って作られるわらび餅も黒っぽい色合いになります。しかし古い文献を調べると、わらび粉は白色、わらび餅は黄金色と記されています。この記述が事実かどうかを自ら確かめようと決意されたそうです。

 ワラビ地下茎は、地上部が枯れた時期に採取し、わらび粉になるまで約1か月を要します。歩留まりは重量比で1〜5%程度で、100kgの地下茎から採れるわらび粉はわずか1〜5kgです。そのため、わらび粉づくりは体力的に非常に厳しい作業となります。
 しかし、昔のわらび粉生産は食用ではなく、主に糊料としての利用が目的でした。岐阜和傘や岐阜提灯の竹骨に塗られるわらび粉は、その代表的な用途であり、当時は食べる目的ではありませんでした。

わらび粉の生産工程を説明する前原さん

わらび粉づくりの工程を解説

 原野のワラビは、収穫できるようになるまでおよそ5年を要します。その間、雑草の繁茂を防ぐため、地上部が枯れてから野焼きを行いながら育成します。こうして育てたワラビ畑約20㎡から、9月下旬から11月にかけて約120kgの地下茎を収穫するそうです。

 収穫した地下茎は洗浄後、木槌で叩き砕き、水で揉んでから漉して沈殿させ、上澄みを取り除きます。さらに、残ったデンプンの上に布を敷き、その上から灰を入れてデンプンの水分を抜くことで、「白バナ」とよばれる白い部分と、「黒バナ」とよばれる黒っぽい部分に分かれます。 それらを直射日光を避けて乾燥させることで、わらび粉が完成します。直射日光を当てると粘りが失われるとされているそうです。

 約120kgの地下茎から採れるわらび粉は、約3.5kgです。昔ながらの製法にこだわって作られるわらび粉は、収率約3%という大変希少な最高級品で、高級和菓子店などに出荷されています。

地域おこし協力隊について説明する前原さん

地域おこし協力隊での活動紹介

 現在流通しているわらび粉は3種類あり、①わらび餅粉(甘蔗デンプン100%)、②九州産わらび粉(わらび由来デンプン100%)、③飛騨産わらび粉(わらび由来デンプン100%)で、1kg当たり単価は①が200~500円、②が20,000~30,000円、③が50,000円くらいだそうです。
 しかし、わらび粉生産だけでは生活を成り立たせることは難しいため、当初は地域おこし協力隊として地域に溶け込み、現在は飛騨市山之村地区の人たちからの依頼に応えながら、様々な手間仕事を担うマルチワーカーとして生計を成り立たせています。

 この、マルチワーカーとしての活動の1つが、地域の人にもお金を稼いでもらう「小商い」で、その代表が「トチノキの実のアク抜き加工」です。

 ①トチノキの実を拾い(買取もする)、②水に浸して虫殺し、③皮むき(トリクジリ)、④水晒し、⑤灰合わせ、⑥熟成、⑦水洗い、⑧パック詰めの工程があります。
 これらの工程でトチノキの実の買取や、加工作業での雇用にも貢献しています。

「小商い」であるトチノキの実のアク抜きを説明する前原さん

トチノキの実のアク抜き作業の紹介

 「小商い」だけでなく、地域の除雪作業やトタン屋根のコールタール塗り、高冷地野菜の収穫補助、有害捕獲を含む狩猟活動など、地域の「困りごと」を解決する仕事も重要な収入源になっています。前原さんが暮らす神岡町山之村地区は、約40戸、120人ほどが暮らす山間の集落です。

 1年間のスケジュールを見ると、個人としての「しごと」と、地域の一員として担う「つとめ」をこなすことで、地域に溶け込み、生活を成り立たせています。

前原さんの年間スケジュール

前原さんの年間スケジュール

 参加者からは、「わらび粉生産やトチノキの実の採取において獣害の影響はあるのか」、「沈殿したわらび粉の水分を抜く際に使用する灰の種類は何か」、「雑草対策はどのように行っているのか」、「学生時代に描いたビジネスモデルと実際の暮らしとの間にギャップはあったのか」、「昔のわらび粉利用は糊料以外に何があったのか。また、食用としては利用されてなかったのか」など、様々な質問が寄せられました。

 そして午後からは、実際に山に入り、ワラビの地下茎を掘る体験を行いました。

堀った地下茎について説明する前原さん

掘り出した地下茎の観察

 掘り出す地下茎は、太ければ良いというものではなく、太くてもデンプンが少ないものや、反対に細くても多くのデンプンが採れることもあるそうです。昔は、地下茎をできるだけ切らずに、1mくらいの長で掘り出せば一人前と言われたそうです。
 良質なデンプンがとれるかどうかを見極める方法の一つとして、地上部が青々している時期に茎を折って、折り口から出る水分や粘り気が多いものほど良質と判断したそうです。一方で、山菜として地上部の茎を採取すると、地下茎のデンプン量は減ってしまうそうです。
 また、地下茎を叩いた後に、内部の芯の組織片を編んで、「わらび縄」も生産していたようです。

各自でわらび餅を作ってみる参加者

各自でわらび餅を作ってみる参加者

 山から戻った後は、参加者それぞれがわらび餅づくりに挑戦しました。

 まずは「わらび餅粉」を使い、粉1:砂糖1:水5の割合で混ぜ合わせます。その後、中火にかけながらかき混ぜていくと、白っぽかった液体が、急に半透明化して粘りが出てきました。それを冷水に入れて冷やし、一口サイズに自分たちで分けて仕上げました。
 参加者は、自分たちで作った「わらび餅」の舌触りや風味を感じ取りました。

わらび粉2種類、左が黒バナ、右が白バナ

わらび粉2種類。左が黒バナで、右が白バナ

 続いて、前原さんが生産した「わらび粉」を観察しました。
 わらび粉の製造工程では、デンプンを沈殿させると、下層には品質の高い「白バナ」、上層には「黒バナ」と呼ばれる部分ができます。

 今回は、この「白バナ」に砂糖を加えて水を加え、その変化を観察しました。

飛騨産本わらび粉の調理法を説明する前原さん

飛騨産本わらび粉の調理法を説明

 まずは前原さんが手本を見せてくださいました。市販のわらび餅粉とは色合いや粘り方が明らかに異なり、わらび餅は「黄金色」と表現されるように、美しい黄色味を帯びていました。

 その後、参加者全員が飛騨産本わらび粉を練り合わせて、それを実食しました。口に入れると、舌触りや伸びの良さ、味わいが大きく異なり、その違いに参加者一同が驚き、納得していました。

 最後に、前原さんのお話を通して、わらび粉生産やトチノキの実の加工といった山村資源を活用した「しごと」だけでなく、地域に深く関わりながら「つとめ」を果たしていくことの大切さを学びました。地域に溶け込み、生業と暮らしを両立されている前原さんの姿は、山村で生きる知恵と実践そのものだと感じられました。

 ご参加いただいた皆様、講師の前原さん、ありがとうございました。

 以上報告はJIRIこと、川尻秀樹でした。

 

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