『救急救命医から学ぶファーストエイド講座』を開催しました!
開催した日:
「現場で調子が悪くなった時に、しばらく様子を見る」ことは最大のリスク。
〜救急救命医・伊藤岳先生から学ぶ、命をつなぐための「評価と判断」〜
「今日は何を勉強してもらうかというと、(この講義からの帰路で)具合が悪そうな人を見つけたときに、どういう手順で、何をすればいいのか。その“判断の軸”だけを持ち帰ってもらいたい。」と、今回の講師である加古川医療センター救急科部長の伊藤岳先生が目標設定をし、講座が始まりました。

講義中の伊藤岳先生
伊藤先生は、救急現場の最前線でドクターヘリやドクターカーに乗り込み、「病院の外」で発生する数々の事故や急変に携わってこられた、いわば”現場救急のスペシャリスト”です。同時に、ご自身も山を愛し、北アルプス・三俣山荘の診療所などで山岳診療にも深く関わっておられます。
今回の講座では、医療資源の乏しい野外現場において、私たち指導者が命をつなぐために下すべき「評価」と「決断」の重さを学ぶことができました。
■減らない遭難
関連省庁では、『遭難』を定義していますが、今回の講義では伊藤先生より、「遭難=屋外で自力で動けなくなる状態」と、非常にシンプルかつ本質的な定義が示されました。
山岳遭難事故は、コロナ禍前までは減少傾向にありましたが、コロナ禍以降は再び増加傾向にあるそうです。遭難の4割は、転倒や滑落による外傷関係が占めています。しかし、単なる転倒や滑落(事故)だけではなく、心臓、血管、脳などに関係する疾患が野外や山中で発生し、その結果として外傷につながっているケースも少なくないとのことでした。
そのため、「ケガをしないようにヘルメットを着用する」といった対策だけでは不十分であり、重症につながる危険な予兆を見逃さないように、狭心症や脳梗塞などを例に挙げながら、症状とその前兆について丁寧に解説していただきました。
■「様子を見る」という判断に潜むリスク
講義の中でも特に印象的だったのが、「様子を見るという判断そのものが、すでにリスクである」という言葉です。例えば、「頭痛がする」「少し胸が苦しい」「冷や汗が出る」といった体調のサイン。少し横になって休むと楽になり、「もう大丈夫」と感じた経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。
しかし伊藤先生は、「少し休んで楽になった」という一時的な回復こそが、心臓や脳の重大な疾患の警告(サイン)である場合が多いと警鐘を鳴らされました。その状態で行動を再開することが、致命的な結果を招くこともあるそうです。これまでの「なんとなく大丈夫だろう」という感覚を捨て、異常を客観的に捉えること。そして、まだ動ける・連絡が取れるうちに、救助を要請しやすい場所へ移動するなど、環境や状況に応じて予定どおりの行動を中断する勇気が大切であると話されました。
■現場で命をつなぐための具体的な「評価(ABCDE)」
診断を行うのではなく「命を奪う可能性が高い順」に確認していく生理学的評価(ABCDE)について、具体的に解説していただきました。
A:気道(Airway)気道に問題はないか
B:呼吸(Breathing )呼吸の回数は正常か。呼吸異常による酸素不足は、短時間で命に関わる。
C:循環(Circulation)心臓のポンプ機能。 顔色、脈の速さや強さ、外出血の有無
D:神経系(Dysfunction of CNS) 呼びかけや痛み刺激に対する反応
E:濡れた衣類の除去や保温(Environment & Exposure)低体温症を防ぐ濡れた衣類の更衣、断熱と保温

頸動脈で脈を診る
これら以外にも、救急医ならではの判断のコツとして、「深呼吸をしたときに腹式呼吸した場合は首の異常を疑え」「脈拍110以上は異常のサイン」など、解剖生理に基づいた具体的な指標を教えていただきました。
止血については、原則は「圧迫止血」。適切な位置で、適切な力で、5分間は絶対に緩めずに押し続けると、ほとんどの出血は止まる。鉛筆の芯の太さ程度の動脈でも、「15分間、押さえた指が白くなる程度の力で押さえ続けると血は止まる」といった、現場の過酷さを想定した妥協のない技術にも触れることができました。

頭部の止血を実演(かなり強く!)
■ 参加者の声
参加された方からは、
「専門家から直接話しを聴く機会がなく、大変勉強になりました。今まで考えたことのないテーマで、多くの気づきがありました」
「ファーストエイドキットは最低限で良いこと、ハサミや手袋の重要性、薬を人に渡してはいけないことなどを学べました」
「普段からリスクに備えた学びや、現場で落ち着いて行動するための訓練やイメージトレーニングの大切さを感じました」
「対処方法を忘れないためにも、定期的に参加したいです。有料でも先生の話をもっと聞きたいです」
といった、前向きで意欲的な声が多く寄せられ、参加者にとって非常に示唆に富んだ講座となりました。
■現場の指導者に求められる力
リスクマネジメントに必要なのは、単なる技術やノウハウだけでなく、「異常や予兆を認知する力」ではないでしょうか。
伊藤先生の言葉は、私たちファーストレスポンダー(最初に要救助者に接触する人)が負う責任の重さを、「救助隊に引き継ぐまでの時間が、日単位になることもある」という言葉で表現されました。つまり、日単位にしないために、異常の予兆を認知し、認知したら最悪な状態になる前に次の行動へつなげていく。人は正常性バイアスにより「大丈夫だろう」と良い方向に考えがちですが、正しい知識を持っていれば、環境や天候が変わる前に適切な判断ができると語られました。
「異常を認知する力」は、適切な講習会に参加し、日常の活動の中でのイメージトレーニングを繰り返すことで、少しずつ磨かれていくのではないでしょうか。
報告者:小川カツオ (森の知恵共創共同事業体)
休館日:火・水曜、年末年始(休館日が祝日の場合、翌平日が休館日になります)
Phone : +81-(0)575-35-3883 / Fax:+81-(0)575-35-2529



