『林将之さんの植物図鑑づくりに学ぶ生き物の見方』
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山渓ハンディ図鑑14『樹木の葉』や「葉っぱはなぜこんな形なのか?」など、様々な図鑑や書籍で有名な林 将之さんをお迎えしての今回の講座。
岐阜県内の方々を中心に、愛知県や三重県、京都府から植物に造詣の深い方々が参加されたマニアックな講座になりました。地元の山口県で伐採されそうになったセンダンが、林さんの提案を契機に保存が決まったことも報告されました。
そもそも林さんが図鑑づくりに着手された経緯から話が始まりました。
林さんはもともと植物分類学とか植物観察とかが専門であった訳ではなく、いろんな自然に造詣ある若者時代を過ごし、スキャナー技術を駆使して樹木の画像を取り込むことに興味を持たれたことが始まりです。
当時、林さんが「これは樹木を検索しやすい」と思われた図鑑が保育社の検索入門『樹木①』『樹木②』だったそうで、こうした樹木図鑑を目指して『葉で見わける樹木 フィールド ガイド』を出版されたそうです。この図鑑を皮切りに、現在までに多くの図鑑を作成され、最近まで沖縄に住んで『沖縄の身近な植物図鑑』を完成されたそうです。
約30分の事前説明の後、フィールで実際の観察です。
樹木の見分けは花や葉があれば比較的簡単ですが、幹の特徴をどのようにとらえれば良いのかなど、コナラを事例に話されていました。
また遠望した樹形や樹冠の枝の透け具合などからどのように樹種を絞っていくのかなど、いろんな視点での見分けについて説明されました。
カナクギノキの味見、クサギの臭い嗅ぎなど、五感をフル活用させる準備をしながら森に入りました。
コナラが多い林ですが歩道沿いでアベマキが出て来たので、コナラやクリとの樹皮(幹肌)の違い、葉の違いなど、参加者自身にしっかり体感してもらいました。
森を構成する樹木のうちヤマウルシがあれば、「これは光要求が大きい樹木なので、これが成長し始めた時には前生高木が何かの理由で無くなり、いわゆるギャップができて明るくなったことが予測される」とか。
オオカメノキがあればその名の由来やムシカリの別名、そしてブナ帯についての話など、幅広い生態的な結び付きなど説明されていました。
タブノキを前にして林さんが、「さてこの樹木は何でしょうか」と問いかけますが、なかなか回答が出ない。
すると林さんから「全員が葉を1枚とって、噛んでみてください」と言われると、参加者から「少しネバネバします」と声が、「そうなんです。少し噛むと粘性があり糸を引きますね」などと会話が弾む。
出現を予想しなかったツツジ属が見られた場所で、ツツジ属には毒のあるものが多く、葉や花にはアンドロメドトキシン、グラヤノトキシン、ロドヤポニンなどが含まれ危険なことを説明されました。
またウスギヨウラク(ツリガネツツジ)の特徴なども、様々な視点での見方を説明されていました。
林さんが「このヤマボウシには花がいくつありますか?」と聞くと、参加者はみな「これは何かあるぞ」と言いながら、しっかり確認していました。
参加者の方によっては天眼鏡(拡大鏡)で確認していました。よく見ると中心部に、淡緑色の小さな花が20~30個密集しているのが分かります。
さて、フィールドから室内に戻って試作された「葉っぱチョコ」。これはクロモジ、カナクギノキ、クサギ、タブノキ、ドクダミ、オオバコなどの葉っぱを、チョコフォンデュのようにしたものです。
お母さんと一緒に葉っぱチョコを味見するお子さん。葉の種類によってはチョコの味が勝っていましたが、クロモジやカナクギノキは大好評、それ以外はそれなりの評価でした。
次に4つのテーブルに分かれて、林さんが出す小枝の樹種判定です。
ここでは図鑑での検索方法が問題。多くの方が『山渓ハンディ 樹木の葉』で単葉か複葉か、鋸歯はあるか、単鋸歯か重鋸歯か、葉裏には毛があるかなど、よく見ないと分かりません。
最初はカスミザクラとヤマザクラの違い、マルバアオダモの見分け、アマヅルやサカキ、シンジュ、タマミズキの判定など、具体的に図鑑の遣い方を学びました。
マルバアオダモの小枝は参加者に細かく折ってもらって、林さんの持つ水の入ったペットボトルに入れてもらいました。
このボトルを少し放置して、太陽光を当てると青く光ります。これは紫外線ランプで見てみると見事に鮮やかな青い蛍光を発しますが、これはクマリンの配糖体物質で、アイヌは刺青する時の消毒液として利用したりしていたそうです。
最後に参加者からの質問タイムです。
図鑑の見方やおすすめの自然など、いろんな質問が出ましたが、私が感動したのは、
「人工林を伐採した跡地を放置して自然林に戻すべきか、造林すべきか」という質問に対して、林さんが仰ったポイントを短くまとめると「森林をどう取り扱うのかという問題もあるが、根本的に私たちが生活する上で紙でも木材でも、食糧でも何でも、海外を犠牲にして自分たちが成り立つのではなく、日本で自給自足できているのか。ということを考えること」を指摘された点です。
ここでは最近増加しているシカのこと、クマが死んだシカを食べて肉食率が高くなること、そしてクマが人家近くの美味しいものを覚えることまで踏み込んで話されていました。
参加者による質問タイム
最後に、林将之さんを囲んで参加者と記念撮影して、楽しい時間を終えたのです。
今回ご参加いただきましたみなさま、林将之さん、ありがとう御座いました。
きっとこれからは自然を見る目も変化することでしょう。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。
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