林業の木材生産を学ぶ『林産研修』
開催した日:
郡上森林組合と郡上森林マネジメント協議会の協力の下、『森林インストラクター資格取得者限定指導者研修』を開催しました。
研修内容は郡上森林組合の木材生産現場である「林産現場研修」と郡上木材センターでの「原木評価研修」で、メイン講師は郡上マネジメント協議会事務局長の樋口享二さんです。
今回は樋口事務局長さんに、郡上森林組合の林産現場である八幡町美山の坪井健太班長さんが、地元の依頼で急遽小面積皆伐を依頼された現場で林産について説明を受けました。樋口さんは『木を診て山を診る』という資料を見せてくださりながら、木材用途による仕分け(用材、合板材、パルプ材、バイオマス材)について。また昔の製材では一棟買いと呼ばれる様々な径級、樹種の木材を購入してもらえていたものが、今は一定直径の単一樹種製材に変化してきたこと。そして木材価格を高める技術、生産コストの低減、流通コストの低減のために何をするのかなど、多岐にわたる内容を説明されました。
樋口さんにお話をお聞きする中、坪井さんたちが樹高27mほどのヒノキを次々伐採されていました。ちなみに樹高は樋口さんがドローンを操縦して測定して下さいました。
写真で見れば簡単に倒しているように見えますが、写真の右手前にはお墓や植栽木があり、それらに危害を与えない方向でかつスイングヤーダが操作しやすく、グラップル作業も容易な的確な場所に倒されていました。
先ほどの坪井さんたちの3m材か、4m材か、枝打ち材かどうかなどを勘案した造材の大変さについてふれ、例えばカラマツ材ならば合板用に出荷するため極端な言い方をすればプロセッサーで4mか2mに造材するだけで良いが、ここでは少しでも山元にお金を返すために、1つ1つ考えながらの生産性の悪い造材になることなどについて話されました。
また以前のパルプ用材は1t当たり3500円くらいだったものが、最近は7000円ほどになった理由なども説明されました。
樋口さんが様々説明されている横に置いてあったヒノキ材の木口面を見るとキクイムシが侵入しようとしていました。
キクイムシと言えばナラ枯れを誘発するカシノナガキクイムシが有名であり、他にもヨシブエキクイムシ、ハンノキキクイムシなども知られています。
ヒノキなどの原木生産で特に被害を与えているのは、ハンノキキクイムシです。ハンノキキクイムシの雌成虫は菌嚢(マイカンギア)という器官を持ち、そこに共生菌(アンブロシア菌)を有しています。雌成虫が木材に孔道を掘り進む途中、孔道内にアンブロシア菌を植え付け、繁殖した共生菌を幼虫が食べて育ちます。
養菌性のキクイムシ類の中でも、特にハンノキキクイムシはたくさんの樹種に穿孔し、繁殖することが可能で、ほとんど全ての広葉樹、ヒノキやスギ、マツなどの針葉樹も利用します。孔道周辺はアンブロシア菌によって黒く変色します。
樋口さんは、「最近の現場ではプロセッサやグラップルで木材をつかむため樹皮が剥離する確率が高くなる。そのため木材を取り扱う回数を少しでも減らすことが重要。」と説明されました。
だからこそプロセッサ処理した時点で、丸太原木を径級や長さ、品等ごとに仕分けして土場に配置すべきこと。今年は例年より2週間ほど早く樹皮が剥がれやすくなっていることなども説明されました。
樋口さんが説明されていた場所は、丁度、所有者境で写真の左側は【枝打ち林】、右側は【放置林】でした。こうした勤勉な森林所有者の林とそうでない所有者の林の原木丸太をしっかり仕分けすることの重要性も説明されました。
ちなみに現在、郡上森林組合では間伐で8.7m3、皆伐で11m3ほどの高い生産性となっているそうです。
さて昼食は郡上森林組合さんでとらせて頂き、午後から郡上市美並町の「郡上木材センター」に移動しました。
現在はヒノキ大径木は伐り控えされているため、多くはスギの丸太です。ここでは木材の「市売り」と「システム販売」の違いについて説明され、買い手が木材を見て買うものと、買い手が木材を見ない信用販売との違いも学びました。
樹皮には様々な痕跡があり、そこから過去を読み解くことが「木を診る」ことにつながります。樹皮に付いた枝痕から幹の節痕を推測し、横皺から「モメ(しおれ)材」を推測する。様々な見方を指導されると同時に、大径木に枕(盤木)をかうことで、木材の買い手が幹の下側まで見られるよう配慮していることも説明されました。
高く評価される丸太は真っすぐで、真円で、年輪幅が均一な原木です。下の写真にある右側の丸太は初期成長は少し粗い年輪ですが、全体的に均質な年輪成長をしており高く評価されます。
また曲がり材は低く評価されると思われがちですが、寺の本堂などに見られる破風材は曲がっているものが必要なため高価取引されます。破風とは切妻造、入母屋造の屋根の妻側部分を広く示す部材です。長さ6mに対して5%の曲がり、つまり30cm曲がったものが必要なのです。
死節材は低く評価されますが、しっかり見てもらって正直な木材販売をされていました。またこの丸太は幹部をグラップルなどで強く挟んだため幹部の木材が少し削れており、末口直径から2cm小さく評価されています。
全国的に「枝虫」が問題になっているので探しましたが、1本だけ見つけました。「枝虫」とは「スギノアカネトラカミキリ」のことです。
スギノアカネトラカミキリの被害材は、一般的に「トビクサレ」や「アリクイ」と呼ばれ、幼虫がスギやヒノキ等の樹幹を食害して木材の変色や腐朽を引き起こすため材価を下げます。
成虫の体長は6.5~14mm、老熟幼虫の体長は20~25mm。1世代には早くて2年、寒冷地方では4~5年かかるとされおり、春遅くに成虫が出現し、立木の枯れ枝の粗皮下に産卵する。幼虫は枯れ枝内を食い進み樹幹に到達すると節の周りを食害します。食害部は菌が侵入して「トビクサレ」となります。老熟幼虫は再び枯れ枝に戻って夏~秋に蛹化・羽化し、そのまま越冬して翌春脱出します。
選別前のスギ材が椪積みされた中に、木口面がひと際黒いスギ丸太を見つけました。木材としては一般的に評価が低いですが、耐腐朽性は強いととも言われ、またこの黒い色を評価される場合もあります。
樋口さんは、「最近、ヒノキが安くなった」といわれますが、木曽ヒノキが搬出されなくなったため、末口直径50cm×5m材以上の高齢級材ならば高く評価されることも解説されました。
さて今回の「林産研修」、森林インストラクターの皆さんには多くの学びがあったことと思います。お忙しい中、研修に協力して下さった樋口様、そして郡上森林組合のみなさま、郡上森林マネジメント協議会のみなさま、ありがとう御座いました。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。
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