morinosに寄せて

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岐阜県立森林文化アカデミー学長 涌井 史郎

morinos。県立森林文化アカデミー構内と演習林の境目に建てられた「森林教育総合センター」の愛称です。しかもこの愛称は、長い時間を掛けmorinosの企画開発と運営案と葛藤を続けてきた教職員が最後に合意した愛称であることの価値があります。
 判り易く、皆さんとこの施設のイメージの共有ができそうな気が致します。

 

 morinosは表意後に置き換えれば「森の巣」です。「森」はともかく「巣」という漢字の意味は、白川静先生による「常用字解」によると「巣」とは「象形」であり、木の上の鳥の巣に雛がいる形。巣の中の雛の首が三つ並んで見える形である」と。又漢字ペディアによると「鳥のす。動物のすむ場所。また、すくう。すをつくる。かくれが。あつまる。群がり集まるところ。」という用い方が紹介されています。
 まさにこのmorinosはこれらの意味の全てを包摂しているがゆえに、敢えて表音語とする意味からカタカナ或いはアルファベット表記にしたという訳です。
利用者の皆様は、どうかmorinosの幅広い意味を利用の都度深め、独自の視点からmorinos活動の水平展開をも試みて頂きたいと念願しています。

 

 さて、人の故郷は森です。何となれば、霊長類を起源とする人は、森の中で進化し、多様な競争関係の中で生き残ってきたからです。その証拠に我々の体内の至る所に進化の軌跡が残されています。その一例が視力です。人の大切な五感の一つ、視覚を司る極めて薄い網膜は、錐体細胞と桿体細胞の2種の視細胞が光と色を感知するために1億以上存在します。多くの動物は、光量が少ない夜も行動ができるよう、もっぱら昼に色彩を認知する錐体細胞の代わり桿体細胞が働き、光を感知し夜の行動を可能としています。しかし人はその桿体細胞の一部と引き換えに色彩、とりわけ緑の色を幅広に認知する機能を備えたのです。ですから夜目遠目とは言いますが暗闇は苦手です。しかし、暗闇の劇場で緑色の非常灯が明確に認知できることを思い出してください。緑に正反応する自分に、進化の系譜を見てとることができるでしょう。樹上では食住の殆どの色彩が緑です。その緑色の微妙な違い、例えば葉や果実の水分量や毒性、美味しそうか不味そうかを見分ける為にも他の生物よりは細かな色の分別は極めて大切だったのです。
そうした進化の記憶が、森などの植物に触れ合うことにより反応し、我々にやすらぎや安ど感をもたらしてくれるのです。
我々の日常は人工構造物の中で大半の時間を過ごしています。しかも急速にDX環境が展開するにつれて、デジタルなアルゴリズムの統計的二進法の計算を基盤にした価値観や日常につい埋没しがちとなります。実は我々を含めた生命体又は生命現象の特色は、シームレスな時間軸を生きている基軸にしています。しかしDX社会はともすれば我々をそうした生命の原則から遠ざけてしまうのです。さながら仮想のアバターとしての自己が、生物として生きる本物の自己を上回り、多様な生命現象と断絶された中に孤独な生物として生活させられる様相が展開し始めているとは考えられないでしょうか。このような仮想社会に生きる人々は、多かれ少なかれデジタル環境に起因したストレスに晒され、診療内科的疾患に罹患する人々が増加する傾向が現に起きつつあります。
それでも大人たちは、今よりは遥かに多い自然との縁を幼少時代に体感しています。昆虫や植物に接した日常があり、それが故に自然との触れ合いの作法や、何が危険で、楽しさが宿る場所はどんな所かをうっすらと記憶しています。
しかし現代の子供たちは、果たして・・・。森を「巣」にすることができるのでしょうか。こうした今という時代。我々の進化の原点であり、故郷ともいえる森との縁を子供たちに体感してもらわねばなりません。その上で、森を敬愛せねばならぬ理由や、森の楽しさや危険さ、そして森こそが故郷である実感を子供たちに識ってもらう必要があります。それでなければ我々の心と体が、我々自身が創り出したアバターに乗っ取られ真のウエルフェアーな生き方を失ってしまうからです。

 

このmorinosは、そうした子供たちから大人、そしてご高齢の方々まで、全世代の方々が楽しみながら発見をし、知的好奇心を刺激し、新たな自分を再生するウエルフェアーなライフスタイルを創り出す契機となる空間でありたいと考えています。
それにしてもここまでの道のりは長いものがありました。morinosの原型のイメージは既に6年前に生まれていたのです。やがてドイツ、バーデン・ヴュルテンベルク州にある本学との連携校ロッテンブルグ林業大学が営むシュツットガルト近郊の「ハウス・デス・ヴァルデス(森の家)」に出会ったところから構想の具体化が始まりました。およそ3年前から本学独自の施設像とコンセプト、それに基づくプログラム開発が始まりました。ようやく本学学生と教員による計画・設計作業が完了し、その原案に対し何と「隈研吾(本学特別招聘教授)」先生が3回も来学され、手ずから学生をご指導頂きました。
また、高名な左官職人であると同時に本学の客員教授でもある「挾土秀平」先生が、学生たちと下塗りをした壁に秀平組の皆さんと共に腕を振るわれ、最後はヒノキの外皮を材料に溶け込ませた土を塗り、森の基盤である多様な県内の土の特性を、十二単のように塗り重ねた壁が仕上がりました。
日ごろから子供たちの森のようちえん活動などで主体的役割を果たして頂いている県内のNPOの皆様。本学に多面的なご支援を頂いている県内外の岐阜県森林技術開発普及コンソーシアム会員の皆様のmorinos構造実現に対する実現への想いは実に熱いものでありました。
このような多くの方々の夢と思いは、建築そして監理に当たって頂いた施工関係者の皆様にも十分に投影され、その全てが一つのオーケストレーションとなってこの素晴らしい施設に開花したのです。
これからは、皆様自身がプログラムの開発者であり、主役であることを是非ともお忘れなきように。
本学は、それらの空間全てに行渡る多くの想いや夢を体系化し、設置の主旨からブレのないプログラムを再編集して皆様に供する役割を任じます。

 

本日のmorinos開設のご披露は、morinos計画全体のゲートウエイのご披露でしかありません。これから利用者の皆様ご自身の手によりmorinos周辺の広場を含むフィールド、そして演習林内に皆様の活動が刻まれ、日々新たなmorinosキャンパスとして生まれ変わっていくのです。
勿論本学もよりこのmorinosが楽しく学びに満ちた安全で快適なキャンパスであることに努めます。幸いにしてコンソーシアム特別会員企業の住友林業(株)や清水建設(株)などの皆様がmorinosに対しご支援を頂く方向が検討されております。
最後の今日まで様々なご協力を頂いた関係者の皆様、そして県に対し本学学長として深甚の謝意を表させて頂きます。ありがとうございます。

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