女性きこりに、リアルな林業の世界を語ってもらいました。

開催した日:

女性の社会進出やジェンダー平等が社会課題として注目されています。
古くから男社会と言われてきた林業の世界にも、少しずつ女性が活躍し始めています。
豊田森林組合に勤める兼脇生恵さんをゲストに迎え、女性きこりの視点でリアルな林業の世界を語ってもらいました。10代から60代まで、幅広い10名が参加しました。

兼脇生恵さん

静岡県出身の兼脇さんは進学のため愛知県に移り、その後建築を専攻するも建設業には就職せずにメーカーの営業事務職などを転々とします。
今でいう「ブラック企業」にあたるような長時間労働をする中で、働く意義を見出せなくなっていた兼脇さん。たまたま目に留まった「森林の仕事ガイダンス」というバナー広告をきっかけに、林業の世界に飛び込むことを決意します。

講義の様子

21日間におよぶ林業就業支援講習を受け、必要なチェーンソーの特別講習もあり、初めて伐採も経験しました。就職先に選んだ豊田森林組合は、自宅から通えて規模が大きく安定して働けそうという理由で、一択だったそうです。

豊田森林組合は全国でも規模の大きい森林組合で、組合員が8,380名、職員数87名、作業員35名で構成されています。大きな特徴の1つに、新人の育成を主目的とした「育成班」を配置し、集中的な訓練を行っていることがあります。この他、伐倒練習機を試験的に導入しています。これは山へ行かずに伐倒練習を可能とする機械で、まだチェーンソーの扱いに慣れていない新人をはじめ、ベテラン勢の基本動作の見直しにも活用されました。
こうした手厚い研修を行う背景には、林業界を取り巻く大きな課題、労働災害対策があります。

兼脇さんが林業に転職して嬉しかったこととして、
・服装が自由
・残業が無い
・ご飯が美味しい
・電話/メールを対応しなくていい
といった点を挙げています。

一方で、初の女性現場作業員として、周りの男性からは、
・女だからって甘やかしてもらえると思うなよ。
・女には山仕事なんて無理。3か月も持たない。
というあからさまな性差別を何回も受けたそうです。
また、重たいものを持たせてもらえない、厳しい現場へ同行させてもらえないという、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)も数多く受け、悔しい思いをしたそうです。

そんな状況でも楽天的で前向きな兼脇さんは、同等に扱ってくれる人に助けられ、3年目を終える頃には誰からも性差別を言われなくなったそうです。

兼脇さんから見た林業界は、未だに「習うより慣れよ」「技を盗め」「見て覚えろ」というスタイルが主流とのこと。それ故、指導者側からの積極的なアドバイスは期待できず、指導者も教えるにあたり何が分からないのかが分からない、といったことも多々あるそうです。
ここは早急な対応が必要だと感じています。

5年間の現場経験を経た兼脇さん。自身が受けた性差別や、後輩の女性が入ったことを受け、今考えていることは、
・性差関係なく、誰でも当たり前に活躍できる環境をつくりたい。
・安全よりも優先されるものはない。
・業界全体の安全意識を高めたい。
・ハラスメントを無くしたい。
・労働者の安全・立場・幸せを守りたい。
とのこと。

若い女性がキャリアを重ねながら、結婚・出産・育休からの復職という、当たり前のキャリアデザインができるよう、労働環境を引き上げたい。これが兼脇さんの願いです。
最後の「林業が変われば社会が変わる」という言葉は、心に強く響きました。

道具の説明をする兼脇さん 重機を操作する兼脇さん 
質疑を挟んで後半は、実際に重機を動かし、模擬伐採の実演を行いました。
まるで自分の手のように自由に重機を操る兼脇さんの技術に、参加者は皆驚いていました。
また、高さ15mほどの模擬伐採実演では、チェーンソーと楔だけで決めた方向にピタリと倒し、こちらも感嘆の声が上がりました。

受け口をつくる

伐倒方向を確認する

伐採後に説明をする

女性きこりの視点から林業のリアルを語り、技を見せていただいた今回の講座。
参加者それぞれの心に強く残るものがあったようです。

(参加者の声)※アンケートより

・働き方に疑問を持ち、ご自身で決断され、転職し、活躍されている姿に感銘を受けました。林業の奥深さを知ることができ、世界が少し広がりました。幅広い世代の方が性別関係なく林業に携わろうと努力されている姿が新鮮でした。日常では知り得なかったです。
・自分が見聞きする林業においてのセクハラや、女性が長く働くための環境づくりといったことへの問題意識を確認できてよかった。

報告者:大武圭介(ウォーリー)NPO法人ホールアース研究所

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