シカの足剥製標本づくり-2
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捨てられる運命にある野生動物の足。廃棄物扱いとなる足の有効利用するための『足剥製標本づくり』です。
今回は先週の2022年3月19日に骨抜きして1週間鞣(なめ)し液に漬け込んだものを、本日は洗浄して縫合、詰め物充填です。
最初に田中先生から、北海道にエゾシカやヒグマを狩猟した時にどのように動き、射撃し、捌(さば)いてくるのかを教えて頂きました。
まず高山市から自家用車で新潟まで走り、そこからフェリーに乗って北海道苫小牧、そこから釧路方面に狩猟に向かう。現地では多くの人が車で見回ってエゾシカを撃ちますが、田中さんはスキーを履いて橇(そり)を曳いて撃つ。大きなオスになると150kg近いものも捕れる。素早く解体して皮を剥ぎ、内臓を出したら、毛皮と頭部を持ち帰る。他の肉は川があればポリエチレン袋に入れて川に沈める。これは肉の温度を冷ます意味と、ヒグマなどに肉を横取りされないため。
内臓は現地に置いてくるが、翌日には必ずヒグマが内臓を食べに来ているので、2日目はヒグマを撃つそうです。
田中先生のお話が終われば、1週間漬け込んだ毛皮の洗浄です。
洗剤は毛糸洗い専用のものがお勧めです。ここでもしっかり脂肪分と鞣(なめ)し液など薬品類を落とします。
長靴を履いて、毛皮を踏むことで脱脂と脱薬品処理します。
洗浄とすすぎを終えたら、次はコンディショナー処理です。これは毛皮の調整のためです。コンディショナーを入れた後も、しっかり踏み込んで成分を浸透させます。
脱水処理している間に、田中先生からシカの射撃についての小レクチャー。多くの猟師が肉をたくさんとるためにシカの頭や首を撃つが、全身剥製を作るときは心臓か肺のバイタルエリアを撃つ。頭を撃つと頭蓋骨が粉々になるし、射撃の的が小さいので難しい。
弾が心臓に当たれば、その場に倒れるだけでなく血液も放血されやすいので肉もいいものが手に入る。肺に当たった場合は150mほど走っていくことが多い。
脱水した毛皮は皮縫い用の三角針で縫い合わせます。三角針に似たセール針などが市販されていますが、今回利用して頂いた針は1本1本を研いだ剥製作成専用の針なため、分厚い毛皮もスイスイ縫うことができます。
マスクしているとは言え、コロナ禍とは言え、参加者全員が一心不乱に黙々と縫合に集中していました。時折、田中先生が参加者を見回って、縫い方や充填剤の木綿(ウッドウール)の入れ方などを指導されました。
シカの足は年齢によって皮の厚みが異なります。
やはり年齢が若いシカ皮は針が入れやすく、3歳以上のシカの皮は堅く、特に後ろ足は皮が厚い部分があります。縫合しながら木綿を充填するのも一苦労です。
親子で参加されたお子さんは、大人を凌ぐ手さばきでシカもクマも完成されていました。お父さんが実践レベルでの体験を重視されているため、本当に高レベルの生活力があるお子さんに育っておられました。
見事な完成具合でした。
全員が3つの足を縫合処理されたので、田中先生がしめくくりに毛皮の取り扱いや、ひと手間掛けることの意味合いを説明されました。今回はテンやアライグマ、ツキノワグマ、シカ、ニホンカモシカなどの毛皮についてお話し頂きました。下の写真中央はアライグマの尻皮です。
田中さんが撃ち、剥いだツキノワグマの敷物。
夏毛と冬毛では毛足の長さに差があるだけでなく、内部に生えている柔らかな毛の有無など、言葉では言い表せないほど違いがあります。またオスのクマとメスのクマでは毛皮に大きな差があり、とにかくメスのクマは柔らかで気持ち良い毛皮でした。
最後に全員が、作品を手に記念撮影です。
シカもクマもしっかり完成させられたのでマスクを外した記念撮影もしました。
今年もコロナ禍に翻弄され、開催が何度も延期になりましたが、運よくご参加いただけました皆様、本当にありがとう御座いました。これを契機に、野生鳥獣についていろいろ考えて頂けますと幸いです。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。
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