『危険木判定』樹木医・グリーンDr.資格者講座

開催した日:

 本日は日本樹木医会岐阜県支部と岐阜県緑の博士グリーンドクター協議会、そしてmorinosによる連携講座で、危険木判定の第一人者である三戸久美子先生をお招きして『危険木判定』についての講義と現場実習を開催しました。三戸先生は『樹木の力学百科』の翻訳者でもあるので、その書籍を読み解くよう内容も含めて講座進行をお願いしました。

 本日の研修内容は、

 1.V.T.A.(Visual Tree Assessment)法の復習

 2.危険度判定でできること、できないこと

 3.樹木の危険性と管理 です。

危険木判定講座風景

危険木判定講座風景

 

 三戸さんは幹に見られる3種類の膨らみについて解説され、左側のは白色腐朽菌によるもの、真ん中は空洞を補強するラムズホーン(腐った部分を補強するように樹皮が巻き込んだもの)、右側は樹冠が風で揺らされて幹に割れが発生し、その割れを修復するように亀裂の先端に出っ張りができます。   

 三戸さんは「診断とは、樹木の形を観察し、その形の意味を読み解く」ことと解説され、師匠でもある堀大才先生は「樹木の「形」はその木の健康状態や生活している環境条件を表している」と仰ったと説明してくださいました。二股になったU字部分が膨らんでいるのは、引っ張りアテができて強くなっている証拠であると、科学的根拠を示されました。

樹木を診断するとはどういうことかを解説する三戸さん

 

 日本と海外の樹木に対する考え方の違いにも触れられました。日本の素晴らしい建築と海外の素晴らしい建築の前にある樹木の写真を例に出され、日本では可哀そうな剪定をされた樹木が見られたのに、海外では建物も樹木もすごく魅力的であったこと。

 スイスでは自宅の庭の樹木を住人が勝手に切ることができない公共財産と考える思想など、樹木は地域景観に重要な存在として認められていることなども解説されました。

スイスでの事例紹介

 

 師匠であるクラウス・マテックさんはどんな人物か。そもそも科学者であること。博士は理論物理学者でその考えを工学に応用し、樹木の形状の研究(物理性・危険性)にとり入れ、世界公認の倒木危険度を判定する方法VTA(Visual Tree Assessment)法を確立した先生で、おちゃめな人物であることなど。私たちが知らない博士の一面も紹介して下さいました。

師匠クラウス・マテック博士

 

 

 マテック博士がV.T.Aを確立させる契機となった樹木が、この「2本の先端が枯れた後、それまでは枝だったのが、今ではボスの座を占拠している」状態のもので、マテック博士はこれを「缶切り樹木」の修復と呼ばれています。

「缶切りの樹木」と呼ばれた樹形

 

 樹木が台風など気象害に強いかどうかを議論する場合、林業では幹の太さと樹高から求める「形状比」が重要視されますが、街路樹や庭園木などを見る場合は形状比ではなく枝下高が問題となる。つまり光合成できる葉量の多い枝が下の方に十分あるかどうかを見極める必要がある。

 「事故責任法」におけるバイブルとされる『Wussow’s classic』には、「V.T.A.法は公衆の安全を守るための法的要件に適合した樹木調査法」と記されています。

 そして樹幹がどの程度空洞ならば危険なのか? 数多くの調査事例から下図のような目安が確認されています。

どの程度の空洞で樹木は倒れるか

 

 さて、下の写真にある崖っぷちに育つ樹木を安全に保管するにはどうすべきか?

 そう問われれば、多くの方が右側の大きな枝を切り、左側からブレーシングするとか、枝などを支えるコブラなどを利用するようなことを提案されます。

 しかしマテック博士は、「右側に伸びる枝があることで樹体が維持されており、この枝が無かったら育たない。この枝が伸びることで左側の地面がしっかり固められ、樹体を安定させている」と解説されたそうです。

崖っぷちで育つ樹木の謎

 

 午後からはフィールドでの現物実習です。移植されて20年経つケヤキの根系が地面に表れているが、このうち三戸さんが立つ場所から参加者側に太く立派な根が発達しているのが分かります。

 ではこの根はどうして発達したのか。 これは多分、この方向に強い風が吹くからでしょう。

 途中で幹に大きな傷がある個体に差し掛かると、こうした傷はサクレをきれいに切り取り、そこにミズゴケなどを付けて黒いポリエチレンフィルムで巻けば、発根やカルス誘導になることなども解説されました。この過程で、参加者からいろいろ意見が出て、いい講座になりました。

移植後20年経過したケヤキについて解説する三戸先生

 

 移植されたクスノキは幹に膨らんだ部分がたくさんあります。これはもともとは枝の痕です。

 木槌で叩いてみて、音が変わらないか。空洞や腐朽部分は無いか。

 参加者から「もしも枝を切るなら、何か塗布剤を塗るのか」と質問されると、「適切な時期に適切な選定方法で枝を切ることが重要。塗布剤の効果は一時的なもので継続的ではない」

 「幹の組織が枝痕を塞ぐ」「幹に地衣類が付着していれば、樹木の成長が遅く、樹皮の新陳代謝が少ないと考えられる」

 「心材化した枝を切断した場合、心材は死んだ組織であり、生きている辺材部分だけが防御反応できる。だから死んだ心材は腐朽する可能性が高くなる」・・・すべてが科学的根拠に基づいて解説されていました。

クスノキを診断している三戸先生

 

 次は天然木のコナラを観察、このコナラは森林文化アカデミーにある最も大きなコナラで、カシノナガキクイムシに何度もアタックされましたが、生き残っている貴重なコナラです。

 このコナラではカシノナガキクイムシの生態に関する話や、切断した枝の巻き込みについて解説されました。

コナラについて解説する三戸先生

 

 このコナラの枝痕は一度、幹から20cmほど出た部分で切断されて放置されていました。切断されてから3年ほどしてから、再度、適切な剪定ラインで切断し直して9年目です。直径約25cmもある枝痕ですが、樹体の栄養状態が良く、かつ適切な切断ラインで剪定してあれば、見事に巻き込んでくれるのです。

直径25cm程の切断枝の巻き込み

 

 道路沿いに植えてある50年生のカンツバキでは、不適切な剪定について解説されました。この切断された枝の枯れ込み具合は、通常の形とは違いますが、こうなった理由は・・・と、次々に考えられることをお話されました。

 樹木にとっては、本来は枝を切断して欲しくない。人間の都合で枝を切断するが、時折、樹木自体が「人間が枝を切断してもいいかも?」というサインを出す。そのサインは「これですね。」と解説されていました。

不適切な剪定事例を説明する三戸先生

 

 さて、森の情報センターに入っての「質問タイム」です。

 「街路樹に自動車が衝突する事例が年間10件ほど発生する自治体で、その傷ついた樹木が将来危険木になってしまうかどうかの判断を迫られる案件」に対して、どのように判断すべきか?

 また「森林内に生育するニセアカシアが腐って倒れる理由は何か」・・・これはニセアカシアは根株腐朽菌に侵されやすいことや、根が風害などで損傷しナラタケなどの土壌伝染性の病原菌類が侵入しやすくなること、パイオニア種は60~80年で寿命が来ることなど、様々な理由が考えられますよね。

室内での質問タイム

 

 さて、私は今回の講座の中で三戸先生が、「枝を切ると、根が腐ります」と仰った意味合いをどれほどの参加者が理解できたのかと感じながらも、大変学び多き一日であったのです。

 ご参加のみなさま、ご苦労様でした。

 以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。

 

 

 

 

 

 

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