屋久島のカリスマガイド 小原比呂志さんとめぐる鶴形山&エコツアー論

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 屋久島で35年のガイド歴がありながら、「縄文杉を案内しないガイド」として知られる一般社団法人屋久島アカデミー創立者の小原比呂志さん。
 小原さんは山だけでなく、森や渓谷、海の調査を通して多様なエコツアープログラムを開発し、島内外への情報発信や後進の育成に力を注いでおられ、NHK『ブラタモリ』で2023年に屋久島を案内したことでも有名な方です。

インタープリターとしての活動を実践説明する小原さん

インタープリターとしての活動を実践説明する小原さん

 今回は午前に、岐阜県の県指定天然記念物『鶴形山暖地性植物』を小原さんと見学。

 岐阜県内の貴重な照葉樹林である鶴形山を歩き、その後、午後はmorinosでその体験を紐解く講義を行いました。長年、屋久島の森を解き明かしてきた小原さんの視点から、身近なフィールドの「面白さ」をどう見出し、伝えていくのか、その極意を学びました。

 山に向かう前に小原さんが「安全につながる3つの事柄」①安全確保して確実に戻ってくること、②トイレや脱水、寒さ暑さなど快適な安心に関すること、③持病の有無など不安解消、について解説され、歩き始めました。

照葉樹の葉の仕組みについて解説する小原さん

照葉樹の葉の仕組みについて解説する小原さん

 鶴形山(標高約360m)の山脚部に広がる常緑広葉樹群は、岐阜県ではほぼ北限に残存する照葉樹林です。ツブラジイやアラカシ、タブノキなどの常緑広葉樹(照葉樹)を中心とした天然林で、内陸部でありながら温暖な地域に見られる植物が特徴です。
 洲原神社の背後の鶴形山南東斜面、約8haが1956年(昭和31年)に岐阜県指定天然記念物に指定されました。
 この山は洲原神社の御山として保護されており、暖地性の植物が多く、ここが北限と思われるものもあります。
 小
原さんは、「タブノキなど照葉樹の葉はどうしてテカテカなのか」について触れられ、水滴が葉の上に溜まることで養分や葉の成分が溶脱されること、太陽光でレンズ現象が起きないことなどを説明されました。
 また台風常襲地では、葉が分厚いことで強風による葉の破壊がしづらいことなども説明されました。
 タブノキは8~9月に栄養豊富な果実を付けること、これは野鳥にとってご馳走で、ジャパニーズ・アボカドとも呼ばれるほどであることも説明されました。

 続いて岩石の多い場所では、最初に何を注意すべきか、そしてどこを確認して、どのような動きをすべきかを考えることなど、現場ごとに応じた説明をされました。

岩石地の危険予知について説明する小原さん

岩石地の危険予知について説明する小原さん

 小原さんは植生について説明する途中、2回ほどアオゲラが鳴くと、すぐにアオゲラの説明に切り替えて、参加者が興味を示す対象に話題を振り替えられました。 
 アオゲラは細い木ばかりの林には現れず、大木とは言わないが、ある程度の太さとなった中径木が必要であることなどを説明し、他のキツツキ類はどのような林を利用するのかにまで話が及びました。

 またカケスが鳴くと、ドングリを利用する野鳥の一例として説明し、続いてドングリの生存戦略について話を続けました。
 ドングリは繁殖するために①豊凶差をつけること、②根や新芽の発生に重要な堅果の頂部は不味く、ネズミがかじる底部は美味しいこと、そして底部を少しかじられても新芽が出ることなど、自然の巧みさについて触れられました。

アオゲラの鳴き声について説明する小原さん

アオゲラの鳴き声について説明する小原さん

 照葉樹の1つであるツバキがたくさん生えていましたが、落ちている花を見ると写真のように花冠が2つに裂かれたものがたくさん見られました。
 この花冠を2つに裂いた張本人は誰か。それは花を裂いて蜜をなめたニホンザルだったのです。

ニホンザルに蜜を吸われたツバキの花

ニホンザルに蜜を吸われたツバキの花

 小原さんはマンリョウの葉の特徴についても説明されました。
 マンリョウは葉の中に葉粒菌という細菌を持っています。この葉粒菌は種子から芽生えて世代交代しても親から子に引き継がれます。マンリョウの仲間を無細菌状態に置いて種子から育てた実験では、茎や枝が萎縮して正常に成長できなかったという実験結果も報告されています。
 ところで多くの図鑑には「マンリョウには窒素固定する葉粒菌がいる」と記されていますが、実際にマンリョウの葉で窒素固定された観察例はこれまで報告されていません。現時点ではマンリョウと葉粒菌間でどのようなやりとりがなされているのかは不明なのです。

マンリョウが生えていた場所で葉粒菌について説明する小原さん

マンリョウが生えていた場所で葉粒菌について説明する小原さん

 さて、午前中があっという間に過ぎたの鶴形山。終わってみれば時間オーバーで話足りないほどでした。

 常緑広葉樹、落葉広葉樹、針葉樹、裏日本系のもの、暖地性のものがあり、樹種は100を越えます。
 主なものとして、上層にはツブラジイ、タブノキ、アベマキ、ヤブニッケイ、クスノキ、モチノキ、ハゼノキ、クロモジ、ヒメコマツ、サカキ、ヒサカキ、ヤブツバキ、アオハダ、ホオノキ、アラカシ、ウラジロカシ、イチイガシ、ツクバネガシ、ヒノキ、ミズナラ、クリ、クヌギ、ソヨゴ、リョウブ、ヤマザクラなどです。
 下層にはナンテン、ネムノキ、コシアブラ、ムラサキシキブ、シキミ、アセビなどが自生しています。
 下草が少なくウラジロ、コシダが見られます。また、岩上にはヒトツバ、マメヅタランが群生し、樹皮にはカヤランが着生しているものもあります。これらの岩上植物は、この付近が北限であると考えられています。

 午後の講義では、午前のフィールド体験を振り返りながら、35年にわたるガイドの知見に基づいた「場所を面白く解き明かすノウハウ」をじっくりと伺いました。「何を案内するか」はもちろん重要ですが、「なぜそれを案内するのか」「どうすれば参加者が感動し、その場所に興味を持つのか」という真髄に迫るお話で、『屋久島のエコツーリズム ~過去と未来をつなぐ持続可能な自然観光~ 』と題しての講義です。

「過去と未来をつなぐ持続可能な自然観察」について説明する小原さん

「過去と未来をつなぐ持続可能な自然観光」について説明する小原さん

(以下、小原さんの講義より一部抜粋) 

●エコツーリズムの核心~ガイドの役割とは~
  私たちが守るのは、私たちが愛するもの
  私たちが愛するのは、私たちが理解したもの
  私たちが理解するのは、私たちが教わったものだけ
 ガイドは「情報を伝える仕事」ではなく、「意味を生む仕事」なんです。

●屋久島から学ぶ示唆
  ①インタープリテーションこそがエコツーリズム
  ②自然の価値は歴史・文化と切り離せない
  ③持続可能性は経済的サイクルと一体
  ④30年を継承し、次の30年を設計する
 インタープリテーション ~効果的な解説の構造 ~ として、T (Thematic)・O (Organized)・R (Relevant)・E (Enjoyable)が重要なこと


 そして「リトリートと新しいガイド像~ 脳科学が示す森の力 ~」の説明があり、新しいガイドの定義についても言及されました。

 今回の小原比呂志さんの講座は、とにかく盛りだくさんな内容で、1日では収まりきらないような多くの事柄を学ぶことができました。

 小原さま、参加されたみなさま、学び多き一日をありがとうございました。

 以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。

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