鹿熊勤さんの『刃物と日本人の暮らし ~森・里・川・海に生きる人々と道具の物語 ~』を開催しました

開催した日:

ネイチャー・ジャーナリスト 鹿熊 勤さんをお迎えして、
 『刃物と日本人の暮らし ~森・里・川・海に生きる人々と道具の物語 ~』を開催しました。

刃物と日本人の暮らしについて講演される鹿熊さん

刃物と日本人の暮らしについて講演される鹿熊さん

 鹿熊 勤(かくま つとむ)さんはフリーランス・ライターであり、ネイチャー・ジャーナリストでもあり、現場視点で『BE-PAL』や『サライ』に記事を提供されています。

 著書は多数あり、『木を読む』『竹、節ありて強し』『紀州備長炭の森から』『野山の名人秘伝帳』『仁淀川漁師秘伝』『刃物をめぐる68の物語』などがあります。立教大学および同大学院の兼任講師も務められています。

 今回は植物(天然素材)とそれを加工する刃物(道具)の関係性、さらにそこから生まれた豊かな文化や優れた技術の価値について、森・里・川・海の現場で使われてきた道具に触れながら、
 ①『刃物と日本人の暮らし』を通して、職人の伝統技術のすごさはどこにあるのか  
 ②『子どもたちに刃物を安全に使わせるため』を考える上で、子どもの成長における刃物の役割とは何なのか
について講義されました。

熱心に鹿熊さんの講義を聴く参加者

熱心に鹿熊さんの講義を聴く参加者

 そもそも『人とは』という問いの中で、「手と道具と対象物、そして脳を密接に連動させることが、人間という動物の本質である」と説明されました。

 また、人は植物に生かされてきた(衣・食・住)こと、伝統的なモノづくりは自然(対象素材)との対話であったことが説明されました。木材の柾目面を利用した飯櫃(めしびつ)は、適度な吸・放湿性と保温性があること、漬物桶や酒樽は板目面を利用することで器の中に水分を保持することなど、先人たちの知恵について触れられました。

 次に青森県の三内丸山遺跡などの事例から、植物を熟知していた縄文人の識別眼についても触れられ、クリの堀立柱などの具体的事例を挙げながら、一つ一つ説明されました。

 昔の道具類を見ると、グリーンウッドワークに通じる『日本伝統の「木使い」の知恵』が見られるとして、二股の枝の利用などについて説明されました。

日本伝統の「木使い」の知恵事例を説明する鹿熊さん

日本伝統の「木使い」の知恵事例を説明する鹿熊さん

 日本人の木材の使い方として、酒樽に利用されるスギ、風呂桶につかうヒノキ、こね鉢をつくるトチノキ、歯の細かさで有名な長野県の工芸品お六櫛をつくるミネバリ(オノオレカンバ)、イチョウのまな板、削り花(削りかけ・木材を薄く削って作る伝統的な造花)のコシアブラ、コリヤナギによる柳行李、樺細工、漆など多岐にわたって説明されました。

 他にも紀伊半島のなれ寿司で使われるシダのウラジロ、お寺の鐘をつくためのシュロなど、様々な木材の有用性についても説明されました。

 お昼休みには持参された道具類を囲んで、参加者が鹿熊さんにその特性や利用方法について質問していました。

海で利用される道具の使い方を説明する鹿熊さん

川や海で利用される道具の使い方を説明する鹿熊さん

 午後からはまず「漆掻き」の動画を見ながら、漆掻き専用の刃物を鍛冶屋さんがどのように作成し、漆掻き職人がどのように使うのかまで、詳しく説明されました。

 日本の漆掻きは「掻き殺し」という手法ですが、単に樹皮に溝を入れれば、樹液が得られる訳ではありません。そこには漆掻き職人ならではの技があり、鹿熊さんが職人から得た情報をもとに、一つ一つお話しくださいました。

漆掻きについて説明する鹿熊さん

漆掻きについて説明する鹿熊さん

 鹿熊さんは『読み書きそろばん、手作り体験』という見出しを掲げ、「子どもたちに刃物を安全に使わせるために、どうしたら良いのか」と投げかけ、続けて「現代の子どもたちが失いつつあるもの」として、
 ・小さな失敗や小さな痛み
 ・小さな感動や小さな驚き
 ・視覚・聴覚以外の感覚(嗅覚、味覚、触覚)
 ・夢想する時間      
 ・予測外の存在や異文化との出会い
    ・旺盛な好奇心  
    ・自信(自己肯定感)
 ・他者への想像力(共感)
 を挙げられました。

現代の子どもたちが失いつつあるもの

現代の子どもたちが失いつつあるもの

 またレイチェル・カーソン女史の『The Sense of Wonder』から、「自然の神秘や不思議さに目を見張ることのできる感性」にも触れられ、ナショナルジオグラフィックに掲載された『子どもの「外遊び」は驚くほど脳にいい、一生ものの能力への影響』の事例や、長野県泰阜村のグリーンウッド自然体験教育センターの「山村留学の子育て力」、長野県池田町立会染小学校の子どもたちが、肥後守で鉛筆を削ることなども紹介されました。

 特に、鉛筆を自分で削るには、刃物を持つ手だけではなく、鉛筆を持つ方の手との連動で成り立つことが説明され、どれほど脳の発達にも影響を与えるのかが示唆されました。

体験を生かした教育手法の事例を紹介する鹿熊さん

体験を生かした教育手法の事例を紹介する鹿熊さん

 伊勢達郎さんが運営するNPO法人自然スクール トエック(TOEC)でのオルタナティブスクール事例から、「夢中になれることを毎日探せるのは、子ども時代の特権である」という言葉の紹介や、1995年にアメリカの公立中学校で始まった、学校の敷地内に菜園を作り、生徒たちが農作物の栽培から収穫、調理、食事までを一連の体験として学ぶ教育プログラム『エディブル・スクールヤード』の取り組みから、自然を対象とした学びについても説明されました。

TOECのオルタナティブスクールの事例を紹介する鹿熊さん

TOECのオルタナティブスクールの事例を紹介する鹿熊さん

 『失敗学』の視点から、子どもたちと危険との付き合い方について、「子どもから刃物を取り上げること」は、リスク管理上、短期的には正しいが、長期的な視点で見れば、刃物に対する危機管理能力の低下につながると述べられました。

 同じように、高層マンションに住んでいる子どもには「高所平気症」という問題があり、本来は恐怖を感じるべき高さに対して、怖い思いをしていないことが問題になると説明されました。

 できる限り小さな失敗による「失敗ワクチン」を打つことが大切だと話されました。

「子どもたちの危険のつきあい」について力説する鹿熊さん

「子どもたちの危険とのつきあい」について力説する鹿熊さん

 参加者からは、「今後、鹿熊さんが着目する項目はありますか?」という質問に対して、鹿熊さんは「豊かな自然という環境に着目していきたい」と答えられました。

 また、「『「山・里・海』の道具の違いから、その道具を作る人や使う人に違いはありますか?」という質問に対しては、「道具を使う里人は計画性のある人が多く、どちらかと言うと石橋を叩いて渡るような慎重な人が多い」
「道具を作る鍛冶屋さんについて言えば、西日本はオープンな気質で、地域によっては頑固な気質のところもある」と話されました。

 さらに、「子どもにどのように刃物を研がせるかが知りたい」という質問に対しては、「今回紹介した小学校の事例では、学校に中砥石が置いてあり、自然に6年生が1年生に教える構図が出来上がっている。先生が指導することはない」と回答されていました。

講座終了後も熱心に道具を確認する参加者

講座終了後も熱心に道具を確認する参加者

 鹿熊さんはこれまで150軒ほどの道具作りの鍛冶屋さんを訪問されたそうですが、そのうち後継者がいるのは1割程度と少ないとのことでした。しかし近年では、お孫さんが鍛冶を継承しているお宅もあり、手業(てわざ)に対する考え方も変わってきたのかもしれないと話されていました。

 今回の鹿熊さんのお話は、山・里・海の道具から始まり、道具の意味深さや、子どもを指導する上での視点など、今後の活動に役立つ多くの示唆を得ることができました。

 講師の鹿熊さん、そしてご参加いただきましたみなさま、誠にありがとうございました。

 以上報告は、JIRIこと川尻秀樹でした。

 

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