本日は郡上市白鳥町石徹白から、NPO法人森の遊学舎 代表理事の大西琢也さんをお招きして、『摩擦発火と焚き火マンダラ講座』を開催しました。

　大西さんはTVチャンピオンサバイバル野人王選手権の優勝者で、実践的野外教育者でもあります。この講座では縄文時代の人々が、どのように「火」を扱い、どのように豊かな生活を営んできたのかを考えながら、人の生活の原点を見つめ直すものです。

今日の参加者に「火の利用方法」を書き出してもらう

　摩擦発火とは木材と木材の摩擦による発火（火起こし）です。

　最初に参加者から、初めて焚火をしたのはいつか。どんなところで焚火したのか。火をつける道具と言えば何を思い浮かべるか。火の使い道はどんなことがあるのか。を出してもらい、次に「本日はどんな焚火術を学びたいのか」をお聞きしてから、焚火する場所の選定に向かいました。

　下の写真で地面が右半分は乾き、左半分は湿っています。湿った場所で火を焚くと土中の水分が水蒸気となって上がってくるので火の管理が難しくなります。

火起こしの予定地を下見する参加者

　参加者の中には、湿った場所での焚火や、濡れた木材でどう焚火するかを学びたい人もいました。

　焚火の場所選びでは、風向きや薪の湿り具合を見ることも重要ですが、最初から燃やす量を考えられることも重要です。燃料が足らないのは困りますが、多過ぎるのも困りますよね。

　大西さんはスギの落葉落枝を手に取って、「赤いのと黒いのどちらが燃やすのに適していますか？」と尋ねながら、燃料材採取を指導されていました。

大西さんからスギの葉の違いについて教えてもらう参加者

　燃料材である柴や薪を集めて来たら、ペアで「どんな目的」で、「何を拾ってきたのか」なども考えてもらいました。火の赤ちゃんにあげる燃料と、大人の火にあげる燃料では違いがあるよね。そして午前中の燃料材採取は終了しました。

　燃やすための燃料材を抱える参加者

　講座の初めに大西さんが説明された、①火口（ほくち）になるものはあるか？

　次に②爪楊枝サイズの細い枝はあるか？　そして③鉛筆サイズの枝はあるか？　そして火が大きくなった時に燃やす太い燃料材はあるか。それらの仕分けも重要です。

燃材を仕分けした状態

　大きな枝は手鋸で利用しやすいサイズに切り分けしました。この時に持参された手鋸が２種類ありました。

　１つは折たたみ式の枝切鋸、もう一つは歯の細かなパイプソーでした。それぞれの手鋸で大きな枝とタケを切ってみてもらい、それぞれ道具の使いやすさも実感してもらいました。

　この段階で材料が仕分け（分類）されていれば、準備万端なのですが・・・段取り八分です。

太い枝を手鋸で切る参加者

　仕分けした燃料材を焚火の火が燃え上がりやすいように組み上げました。単に上方に空気の流れを誘導するのではなく、両サイドからの風の侵入や通り抜けを防止するため、丸太や石を使う工夫もしていました。

燃やすために燃料材を組み上げる参加者

　各自がどのような目的で薪を組んだのか、大西さんに説明しながら全員で考え方をシェアリングしていきます。

　焚火に必要な３要素は、①熱、②空気（酸素）、③燃料　に対して、それを有効に活用するための組み上げが問題です。

　まずは焚火する場所は適正か、着火箇所の燃料材は適切か、上昇気流が出やすい構造か、などなど確認しながら各々の組み上げを確認しました。

参加者の薪組を１つ１つ検証する

　大西さんが燃料材の組み上げ方（薪の置き方）が「合掌 ー 閉傘型」なのか、「並列 ー ２本枕型」なのかと解説し、様々な組み方の特徴を学んでいきました。

　そしてまずマッチでの着火です。ここでうまく火が付けば、燃料材の組み上げは習得完了です。

　「合掌 ー 閉傘型」は早く燃えるが、薪を多く使う可能性がある。また薪を追加することを想定して、焚口をつくれば一層良くなるポイント解説もありました。燃やした時に煙が多ければ、燃料材に水分が多いか、もしくは火床の下が湿っている。ではどのように乾いた条件を作るのか。　燃えてできた熱を薪に反射させているか。様々なことを考えながら着火させると、炎の上がり方で思った通りにできたかどうか分かります。

着火させて燃え具合を見る参加者

　さてお昼ご飯を食べてから、いよいよ『摩擦発火』の本番です。。

　最も古い発火法の火溝式はハワイやバヌアツ、トンガなどで利用され、下側の木材は年輪が無いような樹種が良く、バヌアツなどではハイビスカスが利用されているそうです。

摩擦発火について説明する大西琢也さん

　摩擦発火ではありませんが、参考までに大西さんが火打石も紹介して下さいました。

　火打石は硬い石で鉄を削るもので、火打金は群馬県高崎市の吉井本家の火打金が炭素を多く含み火花が飛びやすい。

　また火打石は硬度７以上の硬い石が良く、水晶やメノウ、チャートなどを使います。この両者を打ち付けて火種を出して、その飛び散った火の粉を「蒲の穂」を解した「火口（ほくち）」で受け取り、イオウを塗った「付け木」に着火するのです。

火打石と吉井本家の火打金

　弓錐式はエジプトなどでも利用されている方法で、ピラミッド内部からも発掘されているそうです。

　弓材に適した木が手に入り難い北極圏では動物の肋骨を弓にしているそうですし、ヒモ部分は動物の革や足のアキレス腱が利用されていたそうです。大西さんは解説しながら、弓錐の実演もしてくれました。

　また舞錐式は江戸時代に開発された200年くらい前の方法で、もともとは穴を空けるための道具を転用した意外にも新しい技術とのことです。

弓錐式を実演する大西琢也さん

　両手で錐を揉んで火種を作る錐揉式では、キブシとウツギの棒を使い、火錐臼（火錐板）にはスギを利用しました。

　大西さんは５秒台で火種を作られる方で、今回も１回揉んだだけで、もくもくと煙が立ち上り始めました。１回の錐揉でスギ板が約１cm削れ、そこに黒くなった木屑（削り屑）が溜まりました。

錐揉式を実演する大西琢也さん

　参加者全員が錐揉式発火を試みますが、なかなか煙が出ません。

　スギの火錐臼は板厚２cm、臼皿は5～7mm、三角の切り出しは正三角形です。

　火種を作るポイントはウツギ（またキブシ）の棒を、上から下に揉み下ろす時に手の平（掌）全体でしっかり回転するよう、真っすぐに揉み下ろすことです。また入れている力の８割ほどで火錐臼（火錐板）に上から押し付けることも重要です。

　無駄に腕に力が入らないこと。それを注意しながら木屑を溜めていくと、時間に差はあるものの煙が出始めます。

参加者全員が錐揉式に挑戦

　大西さんのアドバイスを受けて、キブシとウツギの両方で錐揉による火種づくり成功した参加者の方。

　麻縄を解して作った麻綿に火種を包んで、息を吹きかけて煙が出始めたら、次に腕をぐるぐる回して空気を取り込むと一気に炎が出ました。

麻綿に発火させた参加者

　全員が錐揉式発火法にチャレンジして、少し煙を出すのは簡単なのですが、火種まで到達できない人もいました。

　しかし全員が錐揉のコツをつかんでくれたので、今後は一気に着火できるでしょう。

　大西さんからは「火」の有難さと恐ろしさについてもお話がありましたが、私たちの生活に欠かせない火について深く考える１日だったのです。

最後に「火」について説明する大西琢也さん

　焚火を囲んで人が寄れば、なんとなく自然になれる、素になれる、人の話も心に届く、「火」にはそんな魅力があることも感じて下さい。

　以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。