黒松内ぶなの森自然学校の高木晴光さんによる『北海道・北限のブナの森と自然を知る』講座
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北海道寿都郡黒松内町で「黒松内ぶなの森自然学校」を運営されている高木晴光さんによる『北海道・北限のブナの森と自然を知る』講座を開催しました。
高木さんは、北海道における自然体験活動の第一人者であり、北限のブナの保全に「自然体験活動」や「自然学校」という手法を取り入れながら活動を展開してこられました。その過程では、地域の方々との関わりや人材育成など、様々なドラマも生まれています。
そこで今回は、高木さんのこれまでの実践や経験から学び、今後、岐阜県で展開していく自然体験活動のあり方を考えるヒントを得てもらうことを目的として、本講座を開催しました。

北海道で自然学校を始めた経緯を説明する高木さん
高木さんにお話ししていただく前に、アイスブレイクの1つとして、参加者に両手を組んでもらい、「右の親指が一番上に来た人」と、「左の親指が上に来た人」に分かれてもらいました。続いて、両腕を組んでもらい「右腕が上になる人」と「左腕が上になる人」にさらに分かれてもらい、それぞれの小グループで互いに自己紹介してもらい、引き続いて全体の自己紹介タイムに入りました。
高木さんは、「『ジェットたかぎぃ』と呼ばれています」の一言から自己紹介が始められ、最初に立ち上げた北海道自然体験学校NEOS(後のNPO法人ねおす)について紹介されました。また、NEOSにはNature(自然)・Experience(体験)、Outdoor(野外)・School(学校)という意味が込められていることも説明されました。
活動拠点である黒松内町は、人口約2,300人の町です。高木さんらが進める「北限のぶな里づくり」の背景には、ブナの天然生育分布の北限に位置する歌才ブナ林が、過去に二度、伐採の危機に直面した歴史があります。
1回目は昭和19年頃の太平洋戦争末期です。深刻な物資不足の中、木製戦闘機のプロペラ材として歌才のブナを供出・伐採する計画が浮上しました。しかし、北方植物研究の権威であった北海道大学の館脇操(たてわき みさお)教授が、ブナ自生の北限地帯としての学術的価値を強く訴えたことで、計画は中止されました。
2回目は昭和29年のことです。黒松内村(現・黒松内町)が深刻な財政赤字を補うため、歌才ブナ林の天然記念物指定解除を国に働きかけました。この動きを知った地元住民有志が、文化財保護委員会や衆議院議員など関係各所へ恒久保存を求める請願書を送るなど強く反対し、指定解除と伐採を免れることができました。
このように歌才ブナ林には、二度にわたる存亡の危機を、研究者や地元住民による熱意ある保護活動によって乗り越えてきた歴史があるのです。

高木さんの話を聞く熱心な参加者
北海道全域にて登山、エコツアー、子どもを対象とした自然体験活動を柱とした事業を展開する高木さんは、「北限のブナ」をキーワードにした活動を展開しています。
その森を案内するガイドとして大切にしていることは、①寄り添う(参加者に寄り添う)こと、②見えるものに気付かせること、③見えないものに気付かせること、の3点です。
また、自然の素材や魅力を伝える際には、「①小さく見せる」「②大きく見せる」といった手法を活用しながら説明されているそうです。
案内する相手も幅広く、JICAの研修員や台湾からの研修生、国際ワーキングキャンプNICEの参加者など、海外から訪れる方々にも積極的にガイド活動を行っています。

高木さんが説明する新しい試み
近年の新しい試みとしては「自然体験活動と介護や医療福祉系・自然療法プログラム活動」があるそうです。これには精神科医や作業療法士などの専門家との連携が必要ですが、医療に関しては先生方によって考え方の相違があり、一筋縄ではいかないようです。
森で過ごしたり、森で作業をすることによって、人が本来持つ機能や精神状態がよみがえってくる・・・、昔なら当たり前だった自然の中での活動をすることで、人間本来の機能が覚醒するというのがこの活動のポイントです。

医療スタッフとの連携について説明する高木さん
フィンランドの野外活動団体KOTAによれば、「提供するプログラムは健常者向けと同じでよい。体験を通して同じ感動を味わってほしい」とのことを言われたそうです。
KOTAスタッフをお呼びして学んだことは、
・特別なプログラムではなく、障がいのある方でもできるように少し工夫を加えることが重要で、例えば水をすくう柄杓の柄が短ければ長くするといった、小さな工夫でも良い。
・プログラムを対象者によって作り込み過ぎないこと。目的は、自然に親しみ、感性を育みながらリラックスできる活動であること。
ということと整理されて、お伝えくださいました。

プログラムについて説明する高木さん
高木さんが子どものころには、常に自然へ連れ出してくれる大人がいましたが、今はそうしたことも少なくなったため、その役割をこの場で実践しているとのことでした。

〇〇イズムをつくることを力説する高木さん
そんな活動を進めるために、高木さんは、「イズムをつくる」、つまり憲章やガイドラインなどの基本的な考え方を示し、共有することの大切さも説かれました。
自然学校の運営や人材育成において重要視している「イズム(理念・組織文化)」とは、一言で言えば、「自主・自律した人材の育成」と「自然を通じた地域社会づくり」を核とする経営・教育理念のことです。スタッフや指導者を育てるにあたり、この「理念・イズム」を明確に共有することを大切にしています。
「自己受容力と共感能力の重視」
人材育成のベースとして、自分を受け入れる力(自己受容力)と、他者や自然に寄り添う力(共感能力)を、最も基礎的な「イズム」として位置付けています。
「現場主義と権限委譲(OJT)」
現場で小さな失敗を重ねながら育てるというスタイルで、若手にも大胆に権限を委譲します。その結果生じるリスクや責任は、高木さんら責任者が引き受けるという、強い信頼関係に基づくイズムが浸透しています。
「エコロジーとツーリズムの原則」
高木さんが作られた「ねおす活動のエコロジーの8原則」や「ツーリズム憲章」、「自然案内人の定義」などが、組織共通の行動指針(イズム)として機能しています。
「地域社会へのアプローチ」
単なる子どものアウトドア体験にとどまらず、少子高齢化や過疎化、森の利活用など、地域の社会的課題の解決に向き合う地域づくりを同時に進めることが、高木さんの提唱する独自の活動イズムです。
つまり、自然を楽しむだけでなく、「自然体験を材料にして、自立した人間と持続可能な地域社会を創り出す」という実践的な考え方が、高木晴光さんの語る「イズム」の本質なのです。

全体を「ふりかえる」参加者と高木さん
北海道の寿都郡黒松内町は、日本海と太平洋に挟まれた幅約20kmの場所にあり、かつては日本海側で大量に水揚げされたニシンを加工するための燃料として、多くのブナ林が伐採されてきた歴史があります。
ブナは漢字で木偏に「無」と書いて「橅(ぶな)」とも表記されますが、北海道黒松内町歌才では、木偏に「貴」と書いた独自の「ぶなの字」を用い、ブナの価値や魅力を伝えるブランディングに取り組んでいます。
こうした森を舞台に、多様な活動を通して人間力を育むとともに、作業療法士の方々とも連携しながら、森林資源の活用を進めているとのことでした。

参加者から「今日の感想」を聞く
参加者からの質問タイムでは、「インバウンドの受け入れには英語など語学の問題があるが、どのように対処されているのか」との問いに対し、台湾や中国からの参加者への対応については、もともと高木さんの下で働いていたスタッフが通訳やツアーコンダクターを務めており、高木さんたちの活動そのものへの理解が深いことも説明されました。
また、「体験そのものに価値があることを深く感じた」という感想に対しては、環境教育における本質的な3つのアプローチを示すフレームワーク「in / about / for」に触れられました。
in:自然の『中』で学ぶ(Education in the environment)
about:自然『について』学ぶ(Education about the environment)
for:自然の『ために』行動する(Education for the environment)
これらの考え方を通して、環境を保全しよう、持続可能な地域社会をつくろうという自発的な社会的責任や行動(アクション)を起こす姿勢を育んでいることが説明されました。
最後に高木さんは、「子どもたちに自然の中での面白さや楽しさを伝えていくべきだ」と話されました。そして、環境教育では①育む力、②夢を見る力(それを持ち続ける力)、③変化を恐れない力を身に付けることが重要であり、自然をフィールドとしながら、最終的には「変革の時代を生き抜く、しなやかで強い人間」を育てるための三原則として機能していることを説明されました。
午前中のみの短い時間でしたが、中身の濃いお話をうかがうことができました。ありがとうございました。
以上報告は、JIRIこと川尻秀樹でした。
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