『極寒からの生還術!南極越冬隊員から学ぶ、冬期のリスクマネジメント』を開催しました
開催した日:
冬の自然体験活動は、澄んだ空気や雪景色という大きな魅力を持つ反面、低体温症という命に関わるリスクを常に伴います。
このプログラムは、このリスクに対し、南極や高山という極限環境を知る講師から実践的な知識と技術を学ぶことを目的として開催しました。
講師には、元南極越冬隊員であり、登山ガイドとしても活躍される石際淳さんを迎え、指導者として「命を守る」ための判断力とスキルを磨く、大変貴重な機会となりました。

石際淳さん
【レポート:南極の経験から学ぶ、危機管理の「理論と実践」】
南極で培われた「命のボーダーライン」
講義は、石際さんの第49次南極越冬隊フィールド・アシスタントとしての貴重な経験から始まりました。
南極でのルート工作や救助隊の役割といった実体験は、単なる知識ではなく、極限状況における「リスクマネジメント」の必要性を深く参加者に意識付けするきっかけとなりました。
石際さんは、深部体温が35℃未満となる低体温症のメカニズムを解説。体温を奪う主要な4つの原因(放射、伝導、対流、蒸発)を図解し、夏場の沢登りなどでも低体温症になりうるという具体例を通じて、予防と対策の重要性を強調しました。また、緊急時に命を繋ぐための具体的な対応として、「隔離、保温、加温、食べる」の4つのキーワードと手順が指導されました。

体温(深部体温)と症状
また、2009年7月北海道トムラウシ山で発生した低体温症による遭難事故の例を掲げ、「体温ではなく症状で判断する」方法として、「改訂スイス重症度分類」や、ツェルトの確実な使用が生存を分けたという教訓が共有され、午後の実技への動機づけとなりました。
【実習:低体温症ラッピング (緊急時の対応と実践技術:隔離・保温のノウハウ)】
午後からは、特に、『低体温症のため、自力で歩行できない重症者』への対応として、北海道警察山岳救助隊のノウハウである「低体温症ラッピング」の実技指導が行われました。ブルーシートや寝袋に加え、テントマットなど、活動で利用する身近なもので全身を隔離・保温し、熱を逃がさないようにし、さらに、水筒で作った即席の簡易湯たんぽで加温する具体的な方法を実演しました。

プラスティック製水筒を利用した簡易湯たんぽ

低体温症ラッピング

要救助者に見立てた参加者を包む
【実習:ビバーク技術の習得(ツェルト設営)】
低体温症ラッピングの後は、緊急時に安全を確保するためのツェルト(緊急用シェルター)の設営実習を行いました。
ツェルトの基本的な形(底がない理由)についての知識から始まり、風に強く迅速に設営するための技術が指導されました。
参加者の中には、ツェルトを張った経験がない方も少なくなく、試行錯誤しながらツェルトを張っていました。
石際さんは、張られたツェルト1つ1つにコメントし、より良く、より強くツェルトを張れるように助言をされました。

助言をする石際さん
最後に、『特に強風などの悪条件下でも一人で強固に張る方法』が実演されました。

強風下を想定し、一人でツェルトを張る方法を伝授
質問や、アンケート結果からも、参加者の皆さんは、これらのリスクマネジメント技法を身につけることの大事さを強く感じていただけたことがうかがわれます。
【プログラムから見えてきたこと】
石際さんのプログラムでは、極限体験に基づくリアリティのある講義と、低体温症ラッピングやツェルト設営といった実践的なトレーニングを実施することで、指導者としての危機意識を強化することができました。
ただし、極限環境での技法を知り、身につけていくことは大事なことですが、最も大事なことは、『こういった技術を発揮せずに済むようなリスクマネジメント』、つまり、計画、装備、現場判断、知識や経験、トレーニング、そして『学び』が必要だということです。
自然体験活動や屋外の活動でのリスクマネジメントが気になった方は、2026年2月に基礎から学べるリスクマネジメント講座が実施されますのでご確認ください。
報告者:小川カツオ(森の知恵共創共同事業体)
休館日:火・水曜、年末年始(休館日が祝日の場合、翌平日が休館日になります)
Phone : +81-(0)575-35-3883 / Fax:+81-(0)575-35-2529



