『園庭にビオトープをつくろう ~ビオトープに出逢い、ビオトープから学ぶ一日~』を開催しました

開催した日:

【予定を超えた「対話」の豊かな一日】

自然体験指導者向けプログラム「園庭にビオトープをつくろう ~ビオトープに出逢い、ビオトープから学ぶ一日~」を、美濃加茂市のあじさい保育園の園庭で開催しました。講師は、長年にわたりビオトープづくりに携わってきたオーソリティ、三森典彰さんです。

三森典彰さん

三森典彰さん

当初は園庭という利点を活かし、ビオトープづくりに多くの時間を費やす計画でしたが、蓋を開けてみると、プログラムは良い意味で予想を裏切るものとなりました。一日を通して、三森さんと参加者の皆さんの間で活発な「立ち話」や「対話」が自然発生的に進行し、豊かな学びの時間となったのです。最初は遠慮がちだった参加者たちも、徐々に三森さんに話しかけるようになり、午後には誰かしらが三森さんの近くで質問を投げかけ、議論が深まる様子が見られました。活動中だけでなく、休憩時間にも質問や問いかけが途絶えることはなく、話が広がりすぎて進行上の理由からmorinosスタッフが止める場面もあったほどです。参加者から自然に「問い」が湧き出してくるこの時間は、本当に豊かで楽しい学びの場となりました。

【ビオトープってなんだろう?】

プログラムは「そもそもビオトープとは、なんでしょう?」という三森さんの問いかけから始まりました。多くの参加者が抱いていた一般的な答えは、「人工的につくられた生きものを集める場所」「壊された自然を修復するために作る自然」「特定の生物を保護し、増やすために作る自然」といったものでした。

しかし、三森さんが示したビオトープの定義は、これらの認識とは一線を画すものでした。三森さん曰く、ビオトープとは、「ある場所や地域に生息・生育する、すべての生きものにとって必要となる生息環境や条件がすべて揃っている場所のこと」であると説明されました。

ビオトープとは

ビオトープとは

この定義に基づけば、ビオトープは人によって創出された場所だけでなく、元々存在する自然環境そのものも含まれることになります。そして、ここで最も重要となるのは、今ある目の前の場所が、どのようなビオトープなのかを観ることができる「私」であることだ、と強調されました。

この説明を聞いた参加者の1人は、「かなり気が楽になった」と感想を述べています。「何か特定の生きものを目指してつくる自然とは違うこと」「結果を見て、次にどうするかを考えて、楽しみながらやればよいこと」が確認されたことで、参加者は結果へのプレッシャーから解放され、ビオトープづくりを日常でも試してみようという前向きなモチベーションを得ることができました。

【生き物の気持ちになって考えてみる】

今回のテーマは「水辺のビオトープ」でした。三森さんは、「ビオトープをつくるにあたり、僕らじゃない生きものが、何を欲しているか?考えてみましょう」と問いかけ、メダカやトンボといった水辺の生きものの視点に立つための時間を設けました。

生きものの気持ちになるために、押さえておくべき重要な視点が3つ共有されました。それは「①なまえやからだ」「②くらし(食べ物・繁殖方法)」「③すみか(食べ物・生息方法)」です。参加者は実際にメダカの絵を描きながら、この三つの視点を大切にして、メダカの生態を深く考察しました。

考察は、「なぜメダカという名前なのか」「背中がまっすぐなのはなぜか」「体色や食性」「卵のカタチと繁殖地場所の関係」「繁殖方法とオスのハラビレ」など多岐にわたりました。一つ一つの要素を深く掘り下げていくことで、参加者はメダカという生きものに対する理解を深め、「お近づきになれた」ような感覚を覚えました。

メダカを考察

メダカを考察

また、シオカラトンボについても、オスの身体に見える白い粉が紫外線を反射する働きを持ち、夏の暑い時間帯にも元気に活動できる理由となっているという興味深い事実が共有されました。

その後、水辺ビオトープづくりにおいて重要な要素である「移行帯(エコトーン)」についても学びました。これらの情報をメダカやトンボの生態と結びつけていくことで、自然や生きものを「観る」際の解析度が一気に向上しました。

三森さんは、「解析度があがると、目の前にあるものが、もっともっと面白いと思えるようになります。一般的な珍しいものだけではなく、自分だけの感動をつくることも出来るのです」と、この学びの価値を語りました。これに呼応するように、参加者の1人は「自分の園のまわりの自然、すなわち、今目の前にあるものをよく見てみようと思います。違うものが見えてくる気がして、ワクワクしてきました」と、今後の実践への期待を表明しました。

【個人のビオトープとみんなのビオトープ】

午後のプログラムは、まず個人のビオトープづくりからスタートしました。参加者は、あじさい保育園の園庭にある様々な土の中から、自分で土を選び、「ミニ移行帯」を意識しながら作成に取り組みました。水がしみ込んでも崩れない土を見つけるため、皆さん園庭を動き回りながら試行錯誤を繰り返す様子が見られました。個人ビオトープには、三森さんが持参したタネツケバナ、トキワハゼ、ノチドメなどの植物や、園庭で見つけた植物が植えられました。個人で集中する人、仲間と協力する人、土の配合を追求する人など、それぞれのやり方で時間を過ごしました。

ビオトープ用に用意した植物
ビオトープ用に用意した植物

適した土を探る参加者

適した土を探る参加者

続いて、参加者全員で1つのビオトープをつくる協働作業が行われました。土を掘る係、入れて固める係など、午前の個人ビオトープづくりで得た経験が活かされ、作業は効率的に進められました。この共同制作のビオトープは、日当たりや木の陰などを考慮して、あじさい保育園に実際に設置されています。当日参加していた保育園の方を通じて、参加者全員に経過報告が行われることになりました。

みんなでビオトープづくり

みんなでビオトープづくり

三森さんはこの際、「たとえ、望むような生き物がなかなか来てくれなくても、生き物がまったく利用しない水辺ビオトープはないということ。人が生き物のための場を提供することに、大きな価値があると思う」と、参加者に力強い言葉をかけました。この言葉は、結果を恐れることなく挑戦しようとする参加者にとって、大きな勇気づけとなったようです。大事なのは、日々ある結果を見て、次に活かし、工夫すること。そして、その過程を面白がることなのです。この「面白がれる過程」が、1年や半年といった短い期間で体験できることも、ビオトープの魅力であると三森さんは語りました。何十年後の結果を待つのではなく、目の前の自然と「共に過ごす時間」があること、それがビオトープの本質的な魅力です。

参加者からは、「ビオトープや生き物に苦手意識があったけど、明日から、子ども達と、生き物の気持ちを考えて、『場』づくりをしてみます」と、実践への意欲を示す声が聞かれました。

【1人の問いから、深まる時間】

午前中、三森さんは、希少種保全を目標とする場合でも、特定の生物だけを増やすのではなく、多様な生物の関わりや繋がり(生物間相互作用)を大切にしたビオトープづくりの重要性を説いていました。その中で、「生きものの名前が冠についたビオトープは、ビオトープの本質を考えると違うのではないか」という核心的な問いを投げかけていました。

ビオトープ完成後の、質問のさなか、意を決したように1人の参加者が質問をしました。その方は、今後ゲンジボタルの保全に関わるボランティアをする予定の方であり、三森さんの考え方を理解した上で、自身の立場や環境を共有し、意見を伺うという、非常に真摯でクリティカルな問いでした。三森さんは、事前の打ち合わせで「自分の持っているものは、隠さず全て話します」と語っていた通り、自身の多摩ZOOでの具体的な例を挙げつつ、温かくもクリティカルな考えを丁寧に話し、質問者との対話を深めました。話はヘイケボタルにまで及び、議論が最高潮に達したところで、終了時間が迫ったため、スタッフの声かけでプログラムは終了となりました。

完成したビオトープを囲む

完成したビオトープを囲む

1日を通して、三森さんが最も大切にされていた文脈は、「点ではなく、点が集まって意味を持つ」ということでした。多様な生き物が、それぞれ関わりあって命を繋いでいくために、そして複数の異なる環境を移動する生きもののために、たくさんのビオトープが繋がること(ビオトープネットワーク)が必要であるというメッセージが繰り返し語られました。三森さんは、ビオトープネットワークの詳細については、「次の機会があれば話にきます!」と語り、陸編、森編、雪国編など、今後の継続的なプログラムへの期待が膨らみました。

プログラムの最後、「絶対、生きものがきますからねっ!」と笑顔で語る三森さんの力強い言葉と、それを見つめる参加者全員の笑顔が、この実り多い1日を象徴する印象的な瞬間となりました。

報告者:山路歩あっちゃん/森の知恵共創共同事業体

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